SFP200篇達成2007/11/29 13:47:43

いやはや時間がかかりました。

約1年半。
2006年の4月初めに第1期100篇を終了(126日間で達成)。
その後、こぼれていたお題を少しずつ拾いながら書き進め、
105篇まで進んでいたところで、第2期スタートを決意、
2006年6月1日に第2期を始めたのだが……。

勢いがあったのは最初の6月だけ。ぐんぐんペースダウンして
まるっきり書かない状態が続くようになり、
本当に本当に長くかかって本日ようやく200篇目に。
若干こぼれているお題があるのでSFPはもう少し続くものの、
これでようやくmixi外に飛び出すことを考えられるようになった。
このblogも立ち上げてからずいぶん放置状態だったし。

ということで、お題をいくつか発表しよう。

我こそはと言う方、どうぞあなたのSudden Fictionを発表してください。
お題のスレッドに発表していただいてもいいですし、
ご自分のblogやウェブサイトに発表してトラックバックして
いただくのでもいいですよー。

【お題1】カーテン2007/11/29 13:56:16

最初のお題はこれ。
「カーテン」
です。yasuさんからオーダーいただいたお題です。

作品の最後に
(「カーテン」ordered by yasu-san/text by あなたのペンネーム)
とつけてください。これはお題を出した人への礼儀と言うことで。

「カーテン」と言う言葉がどこかに出てくる作品をお待ちしています。
タイトルに限らず、本文中のどこかに1回出てくればOKです。
もちろん、どんなところで使ってもかまいませんが、
おいしい勘所で使って、大向こうを唸らせるのも醍醐味です。

このお題だけ、サンプルで最初から作品を発表しておきます。


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◇ わけわかんないわけ

 だから何?ってあたしは思うわけ。それが決まらなきゃ世界人類が滅亡するわけ? 地球が割れちゃうわけ? どうしてそういうことでさ、ガンガンプレッシャーかけてくるのかなあ。結婚なんかするんじゃなかったって思っちゃうわけよ。どうだっていいじゃない。ほんとにさ。

 あたしはあの部屋が好き。いまのままで好き。狭いけどお日様はよく入るし、キッチンの高さはあたしにぴったりだし。コンロは3つついているし。トイレに棚が付いているのも本が置けてすごくいいし。玄関を入ってからちょっとヘンな風に廊下が曲がっているのもなんだか個性的でいいし。エレベーターはないけど、そういう不便なのも好きだし。窓は大きいし。まあ窓が大きいから問題なんだけどさ。でもいいじゃない。お日様が出たら起きて、日が暮れたら暗くして寝ればいいんだから。だいたいさ、女のあたしが誰がのぞこうが全然気にならないのにどうして男がいちいちそんなこと気にするわけ? わけわかんないわけ。

 って、なんかあたしワケワケ言ってる。これ口癖かな。まあいいか。口癖なら口癖でさ。ずーっとこんな感じでやってきたんだからさ。いまさら変わらないわけ。しおらしくなったり恥じらったりしてほしい気持ちもわかるけどさ。そういうの、「とってつけた」っていうか、長続きするわけもないしさ。

 だからさ、いいじゃん別に。なけりゃないでいい感じなんだからさ。別に今日決めなくたってさ。無理やり決めたってすぐ気に入らなくなるんだからさ。ねえだからいいじゃない。カーテンなしでも。あたしは平気だよ。

 何色がいい?とか無地が好き?とかどんな柄ならいいの?とか聞かれても答えられないわけ。見つかれば見つかるし、なければないの。理論や理屈で出てくるもんじゃないの。わかんないかなあ。バカだよね男って。

(「カーテン」ordered by yasu-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

【お題2】リモコン2007/11/29 14:03:09

「リモコン」と言う言葉がどこかに出てくる作品をお待ちしています。
タイトルに限らず、本文中のどこかに1回出てくればOKです。

作品の最後に
(「リモコン」ordered by sachiko-san/text by あなたのペンネーム)
とつけてください。これはお題を出した人への礼儀と言うことで。



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◇ リモート・コントローラー

「これさえあれば」博士は携帯端末を取り上げ、会衆に示す。「究極のユビキタス体験ができます。通話やメール、決済機能だとか、音楽配信や地上波デジタルテレビなんて序の口に過ぎんのです」

 得意げに博士は会場を見渡す。しかしながら、自分の言葉があまり関心を呼び起こしていない様子に気づき、とたんに気むずかしそうに眉根にしわを寄せる。「いいですかな。これからご覧いただくのは同じステージ上のできごとに過ぎませんが、実際には、みなさんがどこにいようと、それこそ会社にいても、店にいても、他の県にいても、というより世界中のどこの都市にいてもできることなのですからな。ご覧いただきたい」

 そう言うと博士は携帯端末を操作する。背景の巨大なスクリーンにその端末の画面が映し出される。まず舞台上の冷蔵庫にスポットライトが当たり、スクリーン画面には冷蔵庫に関する情報が表示される。「卵がいくつ残っているか。牛乳の残量はどのくらいか。食材などもICチップさえ埋め込まれておれば、何がどれだけあるか全部わかる。エージェント機能を使えば余分な買い物をせずにすむし、買い忘れもなくなる。もちろん賞味期限切れなんかも教えてくれる」

 勝ち誇ったように博士は言うが、会場の反応はイマイチだ。次に自動車にスポットライトが当たる。スクリーンの画面には自動車のステータスが映し出される。走行距離、ガソリンの量、最終点検日時……。さらに博士の操作でドアロックが開閉し、エンジンが掛かり、博士の前までするすると無人走行までしてのける。「これはつまり、ありとあらゆるものを自在に操作する万能のリモート・コントローラーだと言ってよい」しかし会場の反応はそれほどでもない。

 もはや苛立ちを隠し切れなくなった博士は言う。「どのくらいこれが万能かというと、例えば地球を逆回転させることもできるのだ」。会場から失笑がもれ、博士は完全に逆上する。「試しにやってみよう。この画面を呼び出して、このようにリバースのスイッチを入れるとるれ入をチッイスのスーバリにうよのこ、てし出び呼を面画のこ。うよみてっやにし試」。るす上逆に全完は士博、れもが笑失らか場会。「だのるきでもとこる……

(「リモコン」ordered by sachiko-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

【お題3】駅のホーム2007/11/29 14:04:54

「駅のホーム」と言う言葉がどこかに出てくる作品をお待ちしています。
タイトルに限らず、本文中のどこかに1回出てくればOKです。

作品の最後に
(「駅のホーム」ordered by ariestom-san/text by あなたのペンネーム)
とつけてください。これはお題を出した人への礼儀と言うことで。

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◇ 傘がない

 なかなか日が暮れない夏の宵。時刻はもう9時近いのにまだ空は明るい。ひなびた田舎駅のホームのベンチには部活帰りの高校生がたむろしている。高校生? 変だ。もうとっくに家に帰っていていいはずの時間だ。あまりに空が明るいのでみな帰りそこねているのだ。いくらなんでも明るすぎる。

「けざわ〜、けざわ〜。降りる方がお済みになりましてからご乗車ください。本日傘の忘れ物が大変多くなっております。落とし物・お忘れ物ございませんよう、ご注意願います。下り電車出発します。次は〜、けざわひがしに停車いたします。ドア閉まりま〜す」

 長々としたアナウンスが流れる。そういえば午前中はしとしとと雨が降ってどんより暗い天気だったのだ。しまった。傘がない。どうしたんだろう。どこに置き忘れて。確か会社で。待てよ。会社? 会社の帰りにこんな駅を使ったっけ? ここはどこだ? 何でこんな田舎の駅のホームに自分はいるんだ? けざわってどこだ?

「間もなく上り方面電車が参ります。足元の赤線の内側でお待ちください」
 振り向くと駅名には「毛沢」とある。次の駅は「毛沢西」そして……。
 構内に電車が入ってくる。ドアが開くと肉付きのいい人民服姿の男がたくさん降りてくる。毛沢東だ!

 次の瞬間ぼくはマオカラーの精鋭たちに取り押さえられ、電車の中にひきずりこまれる。「人民裁判だ!人民裁判にかけろ!」怒号が響く。さっきまで詰め襟の制服姿の高校生だったはずの男たちだ。「なんなんだこれは! おれは何もしていない」「傘を持っていないじゃないか」「傘?」「しらばっくれるな!」「傘なら会社に忘れてきた」「ナンセンス!」「ナンセンス?」「資本主義の亡者め」「資本主義だって?」「静かにしろ。傘は天下の回りものなのだ」

 その時、たくさんの毛沢東の中のひとりがにっこり微笑んで包み込むような静かな声でぼくに語りかける。「大丈夫。毛沢西には腕のいい職人がいて、あなたのどちらかの腕を使って立派な傘をつくってくれます。右腕か、左腕で。そうすればもう大丈夫。右腕か、左腕か、片腕は残るし、おまけに一級品の傘も手に入ります。うん。腕が残るから文字通り手に入るってわけですね。あはは」
 笑い事じゃない。まったく笑い事ではない。

(「駅のホーム」ordered by ariestom-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

【お題4】 鈴木さん2007/11/30 07:36:09

「鈴木さん」と言う言葉がどこかに出てくる作品をお待ちしています。
タイトルに限らず、本文中のどこかに1回出てくればOKです。

え? 鈴木さん? って感じですけど、そうです。これがお題です。
作品の最後に
(鈴木さん」ordered by ariestom-san/text by あなたのペンネーム)
とつけてください。これはお題を出した人への礼儀と言うことで。



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◇ 鈴木さん

 行く先々で「鈴木さん」と声をかけられるのがイヤだ。
 最初は福岡に旅行しているときのことだった。キャナルシティでぼんやり水を見ていたら「あれっ、鈴木さん? 鈴木さんでしょう? 千歳烏山の」と声をかけられた。誰だかわからずにますますぼんやりしていると「内田です。わからない? そうかー、そうだよね。ほら中2まで一緒だった……」

 突然のことで混乱して考える。中2まで一緒だった内田さん。ということは彼女は中2で転校したということか? ああそれで福岡に住んでいるのか。
「こっちへはどうして?」
 やっぱりそうだ。この人、こっちに住んでいるんだ。
「お仕事? それとも観光?」
「半分仕事で」
「いいなあ。会社からお金出してもらってアゴアシマクラはただで観光もしちゃうんでしょう!」
 そういうことではなかったが、説明するのも面倒なので笑ってうなずいておく。
「そっかー。ゆっくり話したいけど、ちょっと急ぐんでごめんね。また連絡するわ」
 そういうと内田さんは派手に手を振りながら足早に去っていく。

 北海道でもいきなり声をかけられた。「あれ、鈴木さん? 千歳烏山の!」
 広島でも、京都でも隙だらけでお土産屋をのぞき込んでいるときに声をかけられた。京都ではまさにその土産物屋のお店のおばさんに声をかけられた。

 いちばん驚いたのは雑貨の買い付けに東南アジアをめぐっていたときのこと。バンコックとシンガポールとハノイで別々な人から「鈴木さん! 千歳烏山の鈴木さんだよね?」と声をかけられたことだ。一度の出張旅行で、3カ国3都市で声をかけられたのだ。その3都市それぞれに、千歳烏山の鈴木を知っている人が住んでいるというのも驚きだが、それがたった一度の旅行で連日のように会ってしまうというのは、いったい確率的にどういうことになるのか見当もつかない。ものすごい偶然だ。

 でも最大の問題はわたしは鈴木さんではないということだ。千歳烏山に住んだこともないし、もっといえば東京に住んだこともない。仕事がら旅行は多いけど、生まれも育ちも大阪だし、学生の頃ちょっと高槻に下宿した以外、ずっと実家で暮らしている。

 最近では出張の予定が決まるたび、また「千歳烏山の鈴木さん」と呼ばれるのではないかと、少し気が重くなる。というか本物の「千歳烏山の鈴木さん」はいったい何をしているんだろう。彼女もやっぱり、あちこちで声をかけられているのか。それとも「高槻の牧野さん」なんて呼ばれているのかな。

(「鈴木さん」ordered by ariestom-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)