【お題5】ウツボ2007/12/01 08:22:31

「ウツボ」と言う言葉がどこかに出てくる作品をお待ちしています。
タイトルに限らず、本文中のどこかに1回出てくればOKです。

作品の最後に
(「ウツボ」ordered by shirok-san/text by あなたのペンネーム)
とつけてください。これはお題を出した人への礼儀と言うことで。


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◇ 目の前のウツボ

 ウツボ兄弟には困ったものだ。
 町中が迷惑をしている。酒を飲んでからむとか、機嫌の悪いときに当たり散らすとか言うなら、まだ我慢のしようもあるってものだ。ところが違う。ウツボ兄弟は違う。そんなものではない。ぬらぬらうねうねと徘徊し、だれかれなく出会う人ごとにあの顔つきでにらみつけるのだ。「え?」とも「げ?」とも「お?」とも「な?」ともつかないあの顔つきで。口を半ば開け、ものすごく驚いたように目を見開き、まじまじとこちらをにらみつけるのだ。不安にもなるじゃないか。こっちの顔に何かついているのか。自分がよほど妙な格好をしているんじゃないか。あるいはここで会っていけない理由でもあるのか。というよりここにいてはいけないのか。
 そういうわけで町内会では(正確には川北町自治会の名を借りたお父さんたちの飲み会なのだが)、満場一致で町内会長の後藤さんからウツボ兄弟に一言注意をしてもらうことになった。

 後藤さんがウツボ兄弟に会いに行くというので、その日は朝から町中がざわついた感じだった。奥さんたちは午前中から駅前のドトールや珈琲館にスタンバイして、後藤さんの出陣を見逃すまいとしていた。急に具合が悪くなって会社を休んだOLや会社員の数も不思議と多く、これがみな普段着で歩き回るものだから、どことなく川北町には休日の面影すら漂っていた。後藤さんは後藤さんで、ウツボ兄弟出現の連絡を待って、朝から商店街の連絡所に待機している。結局正午を過ぎても午後1時を過ぎても2時を過ぎてもウツボ兄弟は現れず、「今日はナシかな?」という雰囲気が漂いはじめる。普段着のOLや会社員はそのままランチビールなどを飲み始めたりもする。
 そうこうするうちに下校してきた小学生たちがぽつぽつと集まりはじめる。彼らもウツボ兄弟と町内会長の対決を楽しみにしているのだ。小学生の中には文字通り後藤さんとウツボ兄弟が力と力で対決すると思い込み、過大な期待を寄せるものもいた。いや。それは小学生に限った話ではない。大人たちにしたって、ウツボ兄弟が注意されて「はいそうですか」と退散するはずはない、むしろ、そこからが本番なのだと考えていたことでは一致している。

 夕暮れが近づき、ついに後藤さんが立ち上がった。ドトールでも珈琲館でもマクドナルドでもモスバーガーでも一斉に支払いが始まる。いい場所をとろうというので子どもたちが連絡所前に殺到する。
 後藤さんが連絡所から出てきたとき、一瞬、文字通り何の音も聞こえなくなる瞬間がある。夕方の、一番賑やかなはずの時間帯の商店街を静寂が満たす。やがて低く、抑えた声で副会長の下田さんが尋ねる。「連絡が入りましたか?」後藤さんは首を横に振る。
 なーんだ、という空気が流れ、後藤さんを取り囲む輪が崩れそうになった瞬間、後藤さんは何か言いたそうに口を開き、やがて閉じ、そのまま頭のてっぺんに入れた切れ目から左右にめくれ返すように二つのパートにわかれはじめる。そしてみるみるうちにウツボ兄弟へと変身してしまう。それを見て人々は「え?」とも「げ?」とも「お?」とも「な?」ともつかない表情になり……かくて川北町もまたウツボ兄弟によって占領されてしまうのだ。
 本当にウツボ兄弟には困ったものだ。

(「ウツボ」ordered by shirok-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

Sudden Fiction Projectの展開予定2007/12/01 08:27:05

当面、1日1つずつお題を発表して行きます。

でも恐らくいまこのblogを読んでいる人はほとんどいない状況だと思うので、
なかなか「よし、じゃあSudden Fiction Projectに参加して作品を書こう」
なんて人がすぐに登場するとも思われません(すぐに登場したら驚喜します)。

というわけで、まずは10個くらいお題がたまったところで、
1日1編ペースでぼくの作品を発表して行きます。
現状では【お題1】の「カーテン」だけ、サンプルとして作品を載せていますが、
あと1週間ほどしたら、順番に作品を掲載して行きます。

超短編小説や、ことばあそび、台本のようなもの、

などなどカラフルにお届けするので、どうぞお楽しみに。

【お題6】ご不在連絡票2007/12/02 18:03:17

「ご不在連絡票」と言う言葉がどこかに出てくる作品をお待ちしています。
タイトルに限らず、本文中のどこかに1回出てくればOKです。

作品の最後に
(「ご不在連絡票」ordered by sachiko-san/text by あなたのペンネーム)
とつけてください。これはお題を出した人への礼儀と言うことで。



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◇ telephone call @ 1:34 A.M.

 夜遅くたどり着く。家はマンションの2階だから階段で上がる。廊下の一番突き当たり。蛍光灯が古くなって陰気に明滅している。解錠してドアを開けると、どこか隙間にさしこんであったらしい紙が落ちる。折りたたまれた紙を広げるとご不在連絡票だ。郵便受けが空っぽだったので、そんなものでも嬉しい。

 部屋にはいると電気をつけカバンを置きエアコンをつけ服を脱ぎ捨てパジャマに着替えカーディガンを着込みお湯を沸かしカップに入れたインスタントコーヒーに注ぐ。それからご不在連絡票を見る。ごちゃごちゃといろいろ書いてある。わかりづらい、ダメな仕事だ。どうしろっていうの? どこを読んで欲しいの? 読んでいるだけで眠ってしまいそうだ。いらいらさせられる。裏を見る。電話番号がいくつも並んでいる。

 一番上がドライバー携帯電話だと気づいて目が開く。面白い。ドライバーの携帯電話にかかるんだ。ドライバーがこんな時間にどこまでやってくれるか試してやろうじゃないの。電話をかける。短いコール音の後、すぐにつながる。でも流れるのは時間外通知の録音だ。舌打ちをする。卑怯者。逃げやがった。

 手元のご不在連絡票を見ると、確かにドライバー携帯電話は「電話受付 8時〜21時」となっている。もう何時間も何時間も前に受付は終了していたのだ。不意に胸が熱くなる。バカにしている。酔っぱらいだと思ってバカにしている! 不注意さを思い知らせようとでも言うのだろうか。おまえが仕事でミスをするのはそういう不注意さのせいだと。だってさっきはなかったじゃない。そんなこと書いていなかったじゃない!

 次の場所には「電話受付 7:30〜21:30」と書いてある。かけるなということだ。こんな時間に。
「まだ何も言ってないじゃない!」思わず子機をソファにたたきつけ、どなる。声が震えているのに気づき悔しさと恥ずかしさでますます怒りがこみあげる。「かけるともかけないとも言ってないじゃない。それなのにいきなり門前払い、何も、まだ何も……」

 そこまで言ってから自分が言っていることの筋道が通らないことに気づく。誰に向けて何を怒っているのかもわからない。連絡票をにらむ。そこにあるのはサービスセンターの番号だ。何がサービスセンターなものか。「不サービスセンター」と声に出して呟き、突然ふきだしてしまう。笑いが止まらなくなる。それから次に「24時間受付」の文字を見つける。思わず身を乗り出す。乗り出したつもりだが、実際には姿勢は変わらない。ソファにずぶずぶとうもれたままだ。ソファにずぶずぶ埋もれたまま声に出して読み上げる。「4.インターネット受付」。身震いする。家に帰ってまでインターネットなんて、パソコンなんてつけたくない。拷問だよ、そんなの。待とう。明日の朝まで待とう。その時、何かが頭をノックする。なんだよ。もしもし。なんだよったら。もしもし、まだ3つしか見てませんよ。なんだって? まだ3つしか見てないんですよ。

 不意に頭がはっきりする。ああなるほど。それはおかしい。3つしか見てないのに「4.インターネット受付」ってのは変だ。何かを見落としている。そして見つける。「3. 自動受付センター(24時間受付)」の文字を。音声案内に従って番号を入力しろ、とある。黙って子機を手に取り、電話をかける。
 そしてあの人が出る。
「やあ。やっとかけてくれたね。待っていたんだよ」
 気がつくと目から熱い涙があふれ、嗚咽が漏れるのを抑えることができない。
「いいんだよそのままで。朝までだってこうしているんだから」

(「ご不在連絡票」ordered by sachiko-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

【お題7】火星の石2007/12/03 10:52:02

「火星の石」と言う言葉がどこかに出てくる作品をお待ちしています。
タイトルに限らず、本文中のどこかに1回出てくればOKです。

作品の最後に
(「火星の石」ordered by shirok-san/text by あなたのペンネーム)
とつけてください。これはお題を出した人への礼儀と言うことで。



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◇ バーフライ・トーク

 そこは地下のバーで、落ち着いた雰囲気はどちらかというと珈琲専門店のようでもあり、事実コーヒーもうまいので、ぼくもコーヒーを飲んでしばらく過ごすためだけに入ることがある。この街に引っ越してきて間もなく見つけて以来気に入って、夜2時までやっているというのもぼくには便利で、いまやすっかり常連となっている。MARS STONE、というのが店の名前だ。店の名前などまるで気にかけないで通っていたのだが、3回目か4回目に訪れたとき偶然他の客がいなくなるタイミングがあってマスターと話し込むことがあった。これはその時にマスターから聞いた、店の名前にまつわる話である。

     *     *     *

 え? 何だと思います? 曲のタイトル? ジャズの? ああ。いかにもありそうですね。『マイルストーン』みたいな感じで。いや実際にそういう曲やアルバムがあってもおかしくない。でもブッブー。違います。少なくともこの店の名前のいわれは曲名ではありません。

 あのね。ちょっと話、長くなりますよ。いいですか? ええと、どこから話そうかな。あれはわたしが小学校の3年生の時のことだから、まあどのくらい昔かはご想像におまかせしますが、転校生が来ましてね。大阪弁なのか何なのか知らないけどあっちの方のなまりでしゃべるやつで、確か和歌山だったか香川だったか、そっちの方から来たんです。変わった子で、なかなかみんなとなじまなくてね。というかわたしらも関西なまりを聞いただけで笑ったりしたから当たり前なんだけど。でもそいつがうちの近所に住んでいることがわかって、それから急に仲良くなりましてね。

 そいつのうちにはいろいろ珍しいものがありました。外国から持ってきたボードゲームとかね、バックギャモンなんて当時の日本にどのくらいあったんだろう。レゴなんて部屋を埋め尽くすくらいあったな、冗談抜きで。親父さんがファンだからって言うんで手塚治虫のマンガがずらっとあってね。小学生にはちょっと刺激的なのもあったから夢中で読んだり、ね。部屋にこもって。いや、でもいつ遊びに行っても大人はいなかったんですよ、そのうちは。おふくろさんも、親父さんも。

 いま思い返すとそいつのうちに遊びに行っているときは何かちょっと別な世界の住人になったような感じでしたね。だいたい遊びたい盛りの小学生が午後いっぱい家から一歩も出ないで時間も忘れて遊んでたんですから、ちょっと変わってますよね。

 結局5年生の時にまたそいつが引っ越していくことになって、わたしはライダーカードのコレクションからレアなのを何枚かあげました。そうしたら宝物をくれるって言うんです。それがこれです。何だと思います? そう。火星の石。「誰にも言うたらあかんで内緒やで」って言うんですよ。変でしょ? 隕石だって言うならまだわかる。でも火星の石だって言うためには、誰かが火星に行って石を採取して来なきゃいけないわけですよ。人だか、採取ロボットだかがね。もちろん当時は火星になんて行っているわけないんですがね。でもわたしも子供ですからその辺はよくわかってなくて「ふーん」てなもんですよ。すると、そいつはそいつで怒りはじめてね。「あるはずのない火星の石がここにあるから珍しいんやないか!」って言うんです。しまいには「おれんとこのオトンは宇宙飛行士なんや。誰も知らんけど火星に行ったことがあるんや」って。わたしは内心「そんな嘘までつかなくてもいいのに」なんて思って困っていたんですね。

 そうしたら突然そいつが言ったんですよ。「いらんわ!」って。そしてライダーカードを突っ返してきたんです。「いらんわこんなもん」って。こっちもびっくりしましてね。何て言ったらいいかもわからないし、どうしたらいいのかもわからない。それでなんかこう、凍り付いたようになっていたんです。お互いに。そこに親父さんが現れましてね、いきなり、何の前ぶれもなく。初めて見る親父さんですよ。その人がずかずか部屋に入ってくると「勝手に持ち出したらあかんやないか!」と声を荒げて火星の石をひっつかんで出ていったんですよ。あっと言うまでした。わたしには目もくれなかったって感じですよ。その時初めてわかったんです。それはニセモノじゃなかったんだって。

 結局そいつとは気まずいままでね。結局仲直りしないうちに引っ越していってしまったんです。何だったんでしょうね。本当のところは。不思議でしょう?

     *     *     *

「え?」しばらくしてぼくは言った。「じゃあこの石は?」
 小さな標本箱に納められた手元の石を指してぼくが尋ねると、マスターはにやりと笑って言った。
「ああ! そこまでは考えてなかった」
「はい?」
「待ってくださいね。もう一度やり直しましょう。長くなるけどいいですか? 一杯おごりますよ」

(「火星の石」ordered by shirok-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

【お題8】レセプション2007/12/04 08:29:03

「レセプション」と言う言葉がどこかに出てくる作品をお待ちしています。
タイトルに限らず、本文中のどこかに1回出てくればOKです。

作品の最後に
(レセプション」ordered by aisha-san/text by あなたのペンネーム)
とつけてください。これはお題を出した人への礼儀と言うことで。


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◇ もうひとつ同じものを

 目を閉じて、目を開く。
 同時にからからと目の前の引き戸が開いて、小柄なおばあさんが出てきて、ようきなすった、さあさあ、お上がんなさいと声をかけてくれる。ああどうも。軽くお辞儀をして中にはいると、たたきがあってくつぬぎ石があって上がりがまちの向こうはすぐ畳の取次になっている。
 あたたかい空気の中には煮物の柔らかな香りが漂っている。空腹を思い出す。お邪魔します。とつぶやき、家にあがる。おばあさんに案内されたのは入ってすぐ右手の応接室で、ふかふかした絨毯にソファセットがこじんまりと身を寄せ合っている。
 どうぞ、と勧められるままに一人がけのソファに腰を下ろすと、見た目の印象と異なり、堅めでからだをしっかり支えてくれるので意外だ。悪くない。こういうしっかりしたソファを買おうかと考える。部屋の隅には石油ストーブが置かれ、上に置かれたやかんから湯気が上がって、冬の堅い空気をやわらげている。
 気がつくとサイドテーブルにお茶と菓子が出ている。湯飲みを手に取るとかじかんでいた指先がゆるゆるとほどけていく。茶をすすり思わずああと声をあげる。小豆のはいったカステラのようなお茶受けを口に運ぶ。ふうん。自分が満足げなため息をついたことに気づき口元がほころぶ。
 いいなあ。こういうのはいいなあ。
 ここはどこだっけ。誰のうちだっけ。誰を訪ねてきたんだっけ。
 それから徐々に部屋の印象が薄れていく。ああ。終わって欲しくない。もう少しこのままでいたい。

     *     *     *

 気がつくと店の中だった。わたしは空のグラスを前にカウンターに座っていた。
「いかがでした?」
 微笑みを浮かべたバーテンダーがわたしの顔をのぞきこんで尋ねる。
「うん。悪くない」わたしは答える。「あれは君が考えたのか? あの家は」
「いいえ」バーテンダーは答える。「何をご覧になるかはその人ごとに違うんですよ」
「その人ごとに違う?」
「はい。その人にとっての一番心地よい、おもてなしの体験をされるようです」
「じゃあ、あの家は」
「お客様の記憶の中から一番落ち着く場所を見つけたのではないかと」
「あれが一番落ち着く場所?」
「日によっても違うそうですよ」
 たいしたもんだ。
「たいしたもんだ」声に出して言い、グラスを指して注文する。「もうひとつ同じものを」
「レセプションですね。かしこまりました」

(「レセプション」ordered by aisha-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

【お題9】学習塾2007/12/05 08:16:36

「ハレルヤ」と言う言葉がどこかに出てくる作品をお待ちしています。
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(「学習塾」ordered by yasu-san/text by あなたのペンネーム)
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◇ 三択問題

 学習塾が小学校に言った。「なんていうか、おれたち本当に必要なのかな、二つもさ?」
「それって」小学校は警戒しながら答える。「どういう意味?」
「どういう意味も何も、可哀想じゃん、子どもたち。朝早くから学校行ってさ、一日授業やら何やらあってさ、それが終わっただけで十分集中力を使ってると思うんだよね。」学習塾は一言一言確かめるように口にする。「それが今度は夕方から塾だよ。そんなのどっちか一つでいいって」
「でもどっちかひとつ選べって言われたら」小学校を上目遣いに学習塾を見てそう言う。「みんなは塾を選ぶんだろ?」
「おいおいおいおい」学習塾は両手を大きく広げて肩をすくめる。「そりゃあないだろ。っていうかお前がそれを言っちゃあダメだろ。しっかりしろよおい」
「だって、みんな結局ペーパーテストの学力のことしか考えてないわけだし」
「だからさ。そうやってきょろきょろするからダメなんだろ? お前はお前でどーんと構えて、ペーパーテストの結果に一喜一憂するような家庭には来てもらわなくていい、くらいのことを言い放つべきなんだよ堂々と。だろ? そうすりゃその考え方についてくる人もいるって」
「いないよそんなの。ぼくにはわかっているんだ」小学校は暗い目つきをして言う。「ほんの数年前までゆとりが大事だゆとりこそ人生だと言っていたやつらはいまどこに行ったんだ?」
「まあまあ」学習塾は小学校の肩をポンポンと叩き激励する。「わかる人にはわかってるって。おれは応援しているんだぜ、結構お前のことを。というよりお前が頑張ってくれなきゃ張り合いもないしな」
 学習塾と小学校は別れると即座に仲間に連絡を取り合う。学習塾は「小学校の奴、めげてるフリをしていたけどあれは芝居だな。もっと追い込まなきゃ。学力向上のニーズをもっとPRするんだ」と言う。小学校は「学習塾はほとんど勝ったも同然というつもりでいる。あいつらが大好きなマーケティング・データで、あいつらの足元に揺さぶりをかけるんだ。入試突破に最重要の力点を置いた児童が入学後に受動的にしか振る舞えないという事例を徹底的に掘り起こすんだ」

 そのころどうしようもないど田舎の素寒貧の家庭の偏差値最低のクソガキは今年二頭目の鹿を仕留めて、刃物で胸を裂き心臓をつかみ大動脈の血流を止め、くるくると毛皮をはぎとり、運びやすいサイズまでばらばらに解体し、前近代的な迷信の作法にのっとって狩りの神様に祈りと獲物の一部を捧げ、毛皮と肉をまとめると山道を下るのに扱いやすいように天秤につるし里に下りる。死に際の鹿に引っかけられた傷を手当するための野草を摘み、ついでに鍋に入れる山菜も必要なだけ集める。「ケガなんかしやがって!」と病気の父親に罵倒されることはわかりつつ、鍋料理のことを考えると唾がわく。鍋料理の味付けには自信があるのだ。

 さてここで問題です。切れ者の学習塾と、処世術に長けた小学校と、どうしようもないクソガキの中からひとりだけ、あなたがいざというときに頼れそうな友だちを選ぶとしたら誰を選びますか?

(「学習塾」ordered by yasu-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

【お題10】廃墟2007/12/06 00:33:16

「廃墟」と言う言葉がどこかに出てくる作品をお待ちしています。
タイトルに限らず、本文中のどこかに1回出てくればOKです。

作品の最後に
(「廃墟」ordered by delphi-san/text by あなたのペンネーム)
とつけてください。これはお題を出した人への礼儀と言うことで。



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◇ 舞台写真

 今朝、確かに彼女と目があった。
 間違いなく目があった。
 そう思いながら目をさまし、
 しばらく動悸が止まらない。
 子どものころから同じ夢を見ている。
 場面も違う、展開も違う。でも主題は常に同じ。

 どうして廃墟の写真ばかり撮るのかとよく聞かれる。廃墟を訪ねるのが好きなのか。イエス。廃墟なら古代のものでも近年の工場跡地でも何でもいいのか。ほぼイエス。他の主題より廃墟の方が魅力的なのか。部分的にイエス。いまは廃墟を撮ること以外考えられない。先輩などからはやめた方がいいと諭されることもある。それはありふれた題材だ。アマチュアが好んで取り上げるものであって、そこに突っ込んでいっても大した実りがあるとは思えない、深めようがない、などなど。

 でもそういうことじゃないんだな。
 子どものころから繰り返し見る夢がその答だ。
 テーマが深まるかどうかなど問題ではない。

 いまのところ写真に人物は登場しない。
 けれど、どの写真も本当は
 そこに人物がいるべきなのだと思いながら撮っている。
 夢に出てくる裸身の女性。
 長い夢の終わり頃に現れる女性。
 彼女は廃墟の中にたたずんでいる、いつも。
 いろいろな土地の、
 いろいろな廃墟に。

 写真を撮り始めてから何度か、
 ここは彼女がいた場所だと確信した場所がある。
 写真に彼女はいない。でもそこは彼女がいた場所なのだ。
 一度だけモデルを頼んで廃墟に立たせたことがある。
 でもそれはファインダーを覗いた瞬間から違うとわかった。
 だからモデルが入る前に撮った写真が、
 その廃墟での作品となった。

 夢の中の彼女はいつでも必ず同じポーズでたたずんでいる。
 昔は背中しか見えなかったのが、
 少しずつ角度を変え、最近ではほとんど正面を向いている。
 目があったと感じるほどに。
 間もなく会えるはずだ。
 本当に会えるはずだ。
 だからそれまでは誰もいない廃墟の写真を撮る。
 ほんの少し前まで彼女がいたはずの廃墟の写真を撮り続ける。
 登場人物が去った舞台だけの写真を。

(「廃墟」ordered by delphi-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

明日から作品もアップし始めます2007/12/06 13:31:22

ゆるゆると始動中のSudden Fiction Projectですが、

お題が10個たまりましたので、

明日から作品も1日1編ペースでアップします。

ま、仕事が忙しくなったら更新し忘れることもあるかもしれません。

そんな時はご容赦を。

作品へのご意見・ご感想、大歓迎です。

どしどし書き込んでやってください。

出版関係者からのお声掛けもお待ちしています(笑)。

手に取って読める書籍にしたい!

という欲が湧いてきていますので、アドバイスのある方、

いろいろ教えてやってください。

ところで一昨日あたりから改行がちゃんと反映されないという

トラブルに見舞われています。読みづらかったらアサブロのせいですので、

どうぞご容赦ください(勝手に改行をなくしちゃうんですよ。ぷんぷん)。

【お題11】おじいちゃんの帽子2007/12/07 08:11:51

「おじいちゃんの帽子」と言う言葉がどこかに出てくる作品をお待ちしています。
タイトルに限らず、本文中のどこかに1回出てくればOKです。

作品の最後に
(「おじいちゃんの帽子」ordered by イチ-san/text by あなたのペンネーム)
とつけてください。これはお題を出した人への礼儀と言うことで。



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◇ おじいちゃんの帽子

 人間のにおいがすぐ近くでするので、野ネズミたちはもう何日も巣穴の外に出られずにいた。けれどこのままでは一家全員飢え死にしてしまう。空腹には勝てず、新しい出口を探してトンネルを掘り、やがて地上に出ることに成功する。野ネズミは大急ぎで食べ物を集めて回る。もう冬はすぐそこまで来ている。いま食べられるだけ食べて、貯められるだけ貯めておかなければ命に関わるのだ。身体がそれを知っていて野ネズミを追い立てる。

 頬に溜め込んだ食糧を持ち帰ろうとして、つい野ネズミは元の出入り口のところに戻ってしまう。しかし出入り口に近づいて、この数日かがされてきた、あの人間のにおいに気づき身をすくめる。鼻先だけをぴくぴくさせながら野ネズミは長い時間じっとしている。日が少し陰り、また雲から顔をのぞかせる。天敵の鳥が上空で鳴いているが動かない限り大丈夫だ。

 風が流れ、やみ、また流れ、野ネズミは理解する。ここには人間はいない。生きて動く人間はいない。用心深く人間のにおいを避けながら、野ネズミは元の出入り口を探す。ところが巣穴が見つからない。うろうろしばらくさまよった挙げ句、人間のにおいをプンプンさせる大きな塊が巣穴を塞いでしまっていることに気づく。

 野ネズミは引き返し、新しい出入り口から巣に戻る。そのままトンネルをたどって、昔の出入り口に達する。そこは穴の外のはずなのに、トンネルの続きのような暗い空間が広がっている。人間のにおいがたまらないほど濃くこもっている。けれどだだっぴろく、地面は平らだ。食糧を置くにはちょうどいい。

 何度か雨が降り、枯れ葉が舞い落ちあたりを埋め尽くし、いまはもうソフト帽もすっかり覆われてしまった。また雨が降り、すっかり地面の一部のようになって、帽子の中のがらんとした空間に雨がしみこむこともなくなった。においも少しずつ薄れ、いまはそこは野ネズミたちの食糧倉庫だ。野ネズミの子供たちは地表に少し張り出した新しいなわばりを結構気に入って、時々その中で追いかけっこをしたりしている。やがて霜がおり雪が積もるようになった時、その空間がどのくらい持ちこたえてくれるのか、それはわからない。ただ、いまは、そこは野ネズミたちの新しい隠れ家だ。

 林を出たところで倒れているのを発見されたおじいさんは、何度もうわごとのように「わしの帽子の中に誰かが住んでいる」と言って、周囲から「おじいちゃんもいよいよ一人にしていてはいけない状態になってしまった」と判断される。文化人類学を学んでいるイケメンの孫の一人が「アイヌの世界では、老人がわけのわからないことを口走り始めたら、『神様の言葉をしゃべり始めた』といって大事にするらしいよ。ぼけたと言って見下すのよりずっといいよね。おじいちゃんの帽子の中に誰かが住んでいる、その言葉はその言葉通りに受けとめるべきなのかも知れない」と賢しらげに話して、血のつながらない従姉妹をうっとりとさせる。彼女をモノにできる日も近い、とイケメンの孫は考える。

 神様の言葉。ある意味で、それは正しいかも知れない。おじいさんが野ネズミたちのことを知るはずはないのだから。

(「おじいちゃんの帽子」ordered by イチ-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

【お題12】骨2007/12/09 00:04:15

「骨」と言う言葉がどこかに出てくる作品をお待ちしています。
タイトルに限らず、本文中のどこかに1回出てくればOKです。

作品の最後に
(「骨」ordered by shirok-san/text by あなたのペンネーム)
とつけてください。これはお題を出した人への礼儀と言うことで。




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◇ 207個ある!

「207個ありますな」医師がいった。「1つ多い」
「何がでしょう?」あなたは聞き返す。
「骨の数です。1つ多い」
「骨の数?」
「そう。人体の骨の数は決まっておってな、大きな人でも小柄な人でも206個だ。しかしあなたは違う。1つ多い」
「待ってください。どういうことです。1つ多いって」
「207個あるんですな。1つ多い」
「いやいや」あなたは答える「いやいやいや。それはわかってますって。だからええと」
「1つ多い」
「ええ。それはわかりました。だから、あの、どこの骨が多いんですか?」
「えへん」医師は咳払いをした。もう2度。「えへんえへん」
 間があいた。
 あなたは気がつく。医師は返事する気がないのだ。
「どこの骨が多いんですか、先生。それに1つくらい個人差で」
「なるほど個人差で個数が違う場合が確かにありますな」我が意を得たりと医師は言う。「生まれたての赤ん坊などはまだくっついていない骨が方々にあるのでざっと300個くらいある。これがだんだん癒合していって数が減り、不思議なもので大人になると206個になる。たいていは。しかしもちろん個人差はある」
「なるほど」あなたは安心して少し笑う。「じゃあ滅茶苦茶珍しいってことでは、ないんですね」
「滅茶苦茶珍しいですな」こともなげに医師は言い放つ。「極めてもうベラボウに」
「どうしてですか!」あなたはだんだん腹が立ってくる。「どうしてそんな、ベラ……珍しいんですか」
 医師は手元のカルテをちらっと見る。けれどもその動作に特に意味はない。なぜならカルテにはまだ何も記入されていないからだ。
「電子カルテというものがあって……」
「どうして珍しいんですか!」医師が話をそらそうとしているのに気づいてあなたは詰め寄る。「先生、質問に答えてください!」
「わからない」
「は?」
「どこの骨が多いかわからない」
「わから……じゃあなんで」
「でも数えたら207個ある」
「はい?」
「座敷わらしだ」
「座敷?」
「『11人いる!』みたいなものだ」
「11人?」
「萩尾望都だ」
「そうじゃなくて、なんですそれは」
「宇宙船の中に10人の受験生が」
「そうじゃなくて! どこの骨が多いかわからないと言うのは、どういう」
 医師はじろりとあなたを見つめ、言葉を探すようにしながら言う。
「あれは、読んでおいた方がいいですぞ」
 萩尾望都の話をしている!
「骨の話をしてください!」
「あ」医師はわざとらしくモニターをのぞきこみ、こちらを振り向き、大袈裟に何度もうなずきながら言う。「間違えた。間違えました。206個です。どこも悪くない。だからもう大丈夫。お大事に」
 そういうわけであなたは病院から追い出され、これからの人生を207個の骨と過ごすことになる。どこにあるのかわからない、1つ多い骨とともに。

(「骨」ordered by shirok-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)