【お題15】いかさま2007/12/11 10:50:27

「いかさま」と言う言葉がどこかに出てくる作品をお待ちしています。
タイトルに限らず、本文中のどこかに1回出てくればOKです。

作品の最後に
(「いかさま」ordered by かつきち-san/text by あなたのペンネーム)
とつけてください。これはお題を出した人への礼儀と言うことで。



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◇ いかさま天使

 いかさま天使がやってきたとき、もちろんこちらはそれがいかさまだなんて知らないわけだから、本物の天使だと思って接することになる。見た目はだいたいのところ天使らしいからだ。白っぽい薄手の衣裳を身にまとっていて、羽が生えていて、頭の上には輪っかが浮かんでいる。綺麗な髪の毛に浮かぶ美しい光のリフレクションを指す比喩的な「天使の輪」ではない。本当に輪っかが、ただ頭上に浮かんでいるのだ。何かでくっつけているわけでもなく。

 そりゃあ信じるしかないじゃないですか。

 だからその晩、部屋の中に天使が降りてきて(そうだ! おまけに宙から舞い降りてきたのだ。クレーンもピアノ線もなしに!)、「あきらめないで」などと言うものだからぼくはもうすっかり感激してしまったわけだ。とても美しい澄んだ声で。ぼくより少しだけ高いところに浮いて、あまりにも美しい顔でぼくの心を鷲掴みにしてしまい、深く潤んだ眼でぼくの目を釘付けにし、「あきらめないで。あなたには私たちがついているのだから」だ。もうメロメロじゃないか。

「そばにいてほしい」ぼくはすがりつく思いでそう言った。実際とんでもない状況だったからね。人間関係的にも金銭的にもビジネス的にももう全く抜き差しならない状態で、まだ生きているのが不思議ってていたらくだったから。

「あきらめないで。あなたは一人じゃない」そう言って天使がぼくのそばについてくれた時、これで何もかもうまく行くと、そう思ったさ。思わない方がどうかしているだろう?

 でもそれからだんだん妙なことに気づいたわけだ。天使は割と平気で冷蔵庫の中のものを飲み食いしたりする。最初のうちはさすが人間界とは感覚が違う、と感心したりしていたが、楽しみにしていたかまぼこを全部食べられたときにはちょっと困ったなと思った。

 それだけじゃない。ぼくが働いている間に勝手にCDを聞くらしいが、なんと盤面に指紋をベタベタつけるのだ。天使の指紋? そのあたりでぼくは気づくべきだったんだが、なにしろ貧すれば鈍すだ。まだぼくは彼女が天使だと信じていた。

 気がついたらその天使はぼくの携帯電話を使って妙なサイトにアクセスしまくって、わけのわからないものを次から次に買い込んでいた。トルコ絨毯とか、ワニの干物とか、瀬戸内海の小島とか、実寸のエンパイア・ステート・ビルディングの模型とか。破産寸前のぼくの携帯電話からどうしてそんな買い物ができたかぼくにはわからない。そのあたりはやはり天使的な何か特別な力があるのかも知れない。

 そうしてぼくはとうとう「抜き差しならない状態」を踏み越えたところに、突き抜けたところに行ってしまった自分に気づくわけだ。同時にこいつはいかさまだ!ということにも。そこでぼくはそのいかさま天使に宣告する。出て行け。もうお前とはおしまいだ。おれもおしまいだ。

「あきらめないで。私たちがついている」

 この期におよんでまだ言うか! と思ったら、部屋の中に天使がもう一人増えていた。

(「いかさま」ordered by かつきち-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)