【お題35】リクルートスーツ2007/12/31 09:26:01

「リクルートスーツ」と言う言葉がどこかに出てくる作品をお待ちしています。
タイトルに限らず、本文中のどこかに1回出てくればOKです。

作品の最後に
(「リクルートスーツ」ordered by あべっちょ-san/text by あなたのペンネーム)
とつけてください。これはお題を出した人への礼儀と言うことで。




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◇ セールストーク

店員「スーツをお探しですか」
客「ええ。まあ」
店員「リクルートスーツ」
客「ああ。はあ」
店員「どういったものをお探しですか」
客「いやまだ特に」
店員「個性的なものを」
客「個性的って言うか」
店員「ありきたりなのを」
客「いや、あんまりありきたりでない方が」
店員「ではこちらなどいかがでしょう?」
客「女性用じゃないですか」
店員「ありきたりじゃないですよ」
客「そこまで個性的でない方が」
店員「女性用の中では地味な方です」
客「そういうことじゃなくて」
店員「ではこちらなどいかがでしょうか」
客「ああ。いいですねえ」
店員「裏地にバリ在住のアーティスト、ウギャン・グン・デルエさんの傑作『極彩色の歓喜』をあしらってみました」
客「いらないですから。裏地にそんな派手な絵、要らないですから」
店員「裏地はない方がいいんですか。寒いですよ」
客「いや。裏地は要りますよ。そういう派手な絵は……だって必要ないでしょう!」
店員「ははあ。すると表も裏もありきたりでなく個性的すぎずというあたりですね」
客「ええ、まあ」
店員「これなどいかがでしょうか」
客「……いい、感じだと、思いますけど」
店員「私がデザインしました」
客「ええっ?」
店員「いけませんか」
客「いけなくはないけど」
店員「お客さん、こういう話をご存じですか」
   非常に長い間。
客「えっ? 何? あ。返事待ってんの? 何だよそれ」
店員「こういう話をご存じですか?」
客「……こういう話ってどういう話ですか」
店員「リクルートスーツ棺桶説です」
客「棺桶!?」
店員「ここに2つの棺桶があります」
客「はあ」
店員「1つはマホガニー製で職人の手になる精緻な細工が施された非常に豪華な棺桶です」
客「ああ。はあ。」
店員「もう1つはぺらぺらの段ボールでできた間に合わせの棺桶です」
客「そんな棺桶はないでしょう」
店員「あるんです」
客「いやないでしょう」
店員「それがあるんですよ」
客「いくら粗末でも段ボールって」
店員「まあいいでしょう。そのうちわかりますから」
客「わかんないって! そのうちも何もわかんないって!」
店員「ではもし、この豪華な棺桶を見たらあなたは非常に立派な人物が、あるいは極めて裕福な人物がそこに眠っていると思うでしょう?」
客「まあ、はあ、そうですね」
店員「ところがバッ! 開けてみる。何だ! つまらないやつだ。そんじょそこらにいくらでも転がっている冴えないうだつの上がらない機転の効かない出世街道からも見放されたうらぶれた一束いくらでたたき売りされているような平々凡々の親父だ。どう思います?」
客「どう……って」
店員「食べたいと思いますか」
客「はあ?」
店員「やっぱり栄養をタップリ摂って、脂がのってて、食べごたえのある金持ちでなくちゃ」
客「何言ってるんですか」
店員「冗談ですよ、お客さん」
客「当たり前でしょう!」
店員「棺桶だけ立派でもダメってことです。中身が伴っていないのに棺桶だけ立派にしても、がっかりさせるだけ、いざふたを開けたときの失望が大きくなるだけなんです」
客「ああ。なるほど。無理に自分を良く見せようとしないで、身の程にあったのがいいってことですね」
店員「よくおわかりで」
客「うん、まあ納得が行きました」
店員「ではお客さん、どうぞこちらに」
客「え? あ、はい」
店員「お客さんだけに特別にお見せしたいものが」
客「はあ、ありがとうございます。何ですかここは」
店員「これなどいかがでしょう。あまり派手すぎず、でもそれなりのファッションへのこだわりを感じさせるデザインになっています」
客「これって、え? 何?」
店員「納得行ったんでしょう。買っちゃいましょうよ」
客「これ、だって……」
店員「そうそう。これがほら、段ボールの」
客「か、棺桶じゃないですか!」
店員「ね、あったでしょう? 段ボール製の棺桶」
客「そういうことじゃなくて」
店員「私がデザインしました」
客「いいかげんにせいっ!」

(「リクルートスーツ」ordered by あべっちょ-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)