【お題65】踏み台2008/02/02 08:32:52

「踏み台」と言う言葉がどこかに出てくる作品をお待ちしています。
タイトルに限らず、本文中のどこかに1回出てくればOKです。

作品の最後に
(「踏み台」ordered by tomo-san/text by あなたのペンネーム)
とつけてください。これはお題を出した人への礼儀と言うことで。




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◇ なぞなぞ

 自分の手には届かないなんて、
 そんなに簡単にあきらめないで。
 あきらめないでぼくを探して。
 どんなに高い高い望みでも、
 ぼくならきっとかなえてあげる。
 それが君の手にはいるように。

 地に足がつかないときにも
 疲れたときにも助けてあげるよ。
 一息つきたきゃ声をかけて。
 身の置き場もないカオスの中でも 
 ぼくならきっと役に立てる。
 つかのまの休息を約束するよ。

 時には楽しく遊ぼうじゃないか。
 なんならぼくがドライブに誘おう。
 君の目にどう映るか知らないけれど、
 小回りも利くし走りも滑らかなんだ。
 ぼくならきっと愉快になれる。
 子どもたちの相手も得意なもんさ。

 もしもそうする必要があれば
 君の重荷を背負ってあげよう。
 もしもそうすりゃ晴れ晴れするなら
 重荷をどんどん積み上げてくれていい。
 ぼくならきっと支えてみせる。
 黙って笑って不平も言わず。

 つらいときには叩けばいいさ。
 叩けば意外といい音がする。
 打てば響くのがぼくのいいとこ。
 つらいの忘れてオンガク気分だ。
 ぼくならきっと引き受けられる。
 怒りを情熱に変換できる。

 雪に閉ざされたその街を
 かの冬将軍が襲おうとも、
 君を傷つけるものを遠ざけてみせる。
 冷たい雪から、足元に淀む冷気から
 ぼくなら君を守ってみせる。 
 ぼくなら君を守ってみせる。 

 立ち現れたその人の名は踏み台将校。

(「踏み台」ordered by tomo-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

【お題66】飲料水2008/02/02 08:37:14

「飲料水」と言う言葉がどこかに出てくる作品をお待ちしています。
タイトルに限らず、本文中のどこかに1回出てくればOKです。

作品の最後に
(「飲料水」ordered by aisha-san/text by あなたのペンネーム)
とつけてください。これはお題を出した人への礼儀と言うことで。




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◇ ハンティング

 コートの衿を立ててあなたは足を早める。今にも冷たい雨が降り出しそうなどんよりした空の下、人々は皆同じように首をすくめ背を丸め足早に歩いている。部活帰りの女子高生のグループが通り過ぎるが、芯から冷える寒さに声もない。あなたは鋭い視線を彼女たちの顔に浴びせるが、そこには求めているものは見つからない。

 コートの下にほとんど何も着ていないのはすばやくことを済ませるためだ。ふだんならばここまで大胆なことはしない。こんな大きな町にコート1枚羽織っただけで出てくるような危険な真似はしない。しかしもう半月も続く飢えと渇きに苛まれている。もう限界なのだ。乳房が張り乳首が固くなっているのは寒さのためだけではない。獲物をとらえたくて全身が猛り狂っているのだ。

 風が吹き、コートがあおられる。一人の男があなたをじろじろ見ながら通り過ぎる。何か気づかれたかも知れない。あなたは男を値踏みするがお話にならない。顔には酒焼けが、浮き歯には煙草のヤニの色がしみついている。内臓のどこかを悪くしているだろうし、そうすると何かクスリを飲んでいる可能性もある。断じてそんなものにかかわってはいけない。理想的なのは毒されていない健康体だ。

 半月前の獲物は背の高い高校生の少年だった。透き通るような肌をして、整った顔立ちで、文句なく見えた。そもそも外見で気に入ったのだ。すこし会話をしてかすかな口臭が気になったものの、直前に食べたもののせいだと思うことにした。それが間違いだった。警戒する少年にややあからさまな誘いをかけ、お茶の相手をさせ、話しながら徐々にその気にさせ、苦労してホテルの部屋に連れ込んだ。

 服を脱がせ、肌を合わせて一気に飲み込もうとした瞬間に気がついた。生まれつきの病気を持っている。そして小さな頃から治療薬に浸ってきている。こんなものを飲んではいけない。こんなものを飲み込んではこちらがおかしくなってしまう。あなたは途方もない渇きに襲われながら、目の前の獲物を諦め、訳もわからず混乱する裸の少年を廊下に放り出した。

 治療薬を飲んでいないこと。麻薬に手を出していないこと。保存料や着色料を使った食事をとっていないこと。農薬をつかったり、殺虫剤をつかったりしていないこと。適度な運動をしていること。十分な睡眠をとっていること。あなたにとって必要なのは汚れなき肉体なのだ。あなたの渇きを癒し、飢えを満たす安全で健康的な肉体なのだ。

 でもこの都会にそのような理想的な獲物はほとんどない。病んでいるか、薬品漬けになっているか、不健康な生活をしているか。そんな者の血をうっかり飲むと深刻なダメージを食らうことがある。肌から流れ込んでくるエネルギーだけで我慢して、血を飲まなければいいのかも知れないが、そんなの無理だ。できたためしがない。血を飲まずに食事を済ませることなどできない。

 それにしても最近の獲物の状態はひどすぎる。こんなのは前世紀の初め頃まで体験したことがなかった。それまで自然界にはなかったもの、あってもごく微量だったものなど、人間は急速にさまざまな化学物質を生み出すようになり、自分自身を汚染してしまった。見つかるリスクをおかして地方に行ったが、撒布する農薬のせいでもっとひどい状態だった。もうどこに行っても同じなのだ。

 あなたはあまりの飢えと渇きに身を震わせ、目を閉じる。どこか近くの大画面モニターから飲料水のCMが聞こえてくる。それを聞きながら思わずあなたは笑う。そう。おいしくてからだにいい飲料水を手に入れるのは困難なのだ。おまえたちがなかなか手に入れられないように、わたしも渇きを心底潤してくれるたっぷりの飲料水を手に入れるのに大変苦労しているのだよ。

(「飲料水」ordered by aisha-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)