◇ 来[2]2009/07/27 07:05:41

 部屋を片付けてさっぱりしたら、景気のいい声が近づいて来た。
 ピンポンピンポーンっと、これも景気よくドアフォンが鳴って、出たらやっぱり悠宇那だった。
「コンニッター!」
「コンニッター!」
「セレソンしてるー? セーラ」
「ユノユノ、相変わらず景気いいねー」
「好景気!」

 ユノユノは悠宇那の、セーラはわたしのSN。セレソンネーム。セレソンってさ、サッカーとかの代表だと思うじゃない? でもリオーナが、璃苑がほんとうは選ばれし者って意味だって教えてくれて、セレブよりカワイイし、わたしたちはセレソンになるんだっていうから決定! 璃苑はわたしのこと、聖良はもともとセーラだから世界に通用する名前でいいなって言って、璃苑はリオンだからリオーナって決めてセレソンネームが始まった。リオンだってそのままでも外人っぽいって思うんだけど、リオーナ頭いいし、リオーナの方がいいんだと思う。

 ユウナもそのままでもゲームキャラみたいで世界で通用するよって言ったんだけど、ユノユノにしちゃって、それってぜんぜんコクナイセンって感じなんですけどって言っても、もう決めたってことでwithoutビク。びくともしませんでしたとさ。

 My SpaceとFacebookにアーティストっぽいページを作ってくれたのはユノユノだ。ユノユノはほんと天才なんじゃないかと思う。mixiにひとりずつコミュニティをつくろうって思いついたのもユノユノだった。書くのはあんたにまかせたからね、セーラ。まかせなさい。わたしは書くのは大好きだから。2人がTwitterにつぶやいたこととか適当に拾って3人分のセレソン日記を書いた。

 コミュニティにわたしたちしかいない間は超ウケた話とか、犬の糞の写真とか、バカばっかり書いてて楽しかったんだけど、気がついたら知らない人がどんどん増えて来て、それもわたしたちのこと芸能人だと思ってるっぽいからおかしくてしかたなかった。ある日何の気なしにリオーナのコミュニティで「セレソンは芸能人じゃないのよ」なんて書いたら、急に大騒ぎが起こったんだ。

 セレソンとは何か?というトピが立ち上がって、ちょうど映画でセレソンって言葉の出てくる映画があったせいで、そっち関係の人たちも出入りしはじめて、そっちのセレソンのことはわたしたしぜんぜん知らなかったからわけがわからないうちに、わたしたちのコミュニティが映画の宣伝じゃないかとか言われたり、映画がわたしたちをモデルにつくられたんじゃないかって言われたり、知らないところでどんどん話が大きくなっていて、そんなこと知らないからわたしが毎日バカ日記書いてたら、映画の宣伝にしてはリアルな女の子っぽいとか言われて知らないうちにメンバーがもうすぐ5000人になりそうになっていた。

「ねえ、これってもう有名人の仲間入りなんじゃない?」
「古田新太で8000人いってないのよ」
「どうしてどこで古田新太が出てくんのよ」
「いいじゃない。好きなんだから」
「5000人超えたらパーティーやろうか」
「やろうやろう。セーラんちでやろう」
「どうしてうちなのよ」
「いいじゃない。好きなんだから」

 ユノユノが来て、ワインをあけて、2人でサラダをつくったりしてたらリオーナも来て、冷蔵庫からわたしがつくったイカ刺しのユッケと大根をパスタみたいに使ったカルボナーラを出して乾杯した。パソコンを立ち上げてmixiのみんなのコミュニティを見ようとしたら、わたしあてにメッセージが届いていた。「何か来てるよ」リオーナがめざとく見つけた。さっそくチェックしたら送り主はコミュニティによく書き込んでいるhirotaという男の子で、タイトルは「伝言です」となっていて、「ぼくのところにこの写真が送られてきました。セーラさん宛てに送ってくれと言われたので送ります。これ、セーラさんに何か関係があるんですか?」と書かれていた。

 メッセージの本文中のURLを叩くと大きな写真が表示された。望遠レンズでマンションの廊下を外から撮ったもので、一軒のドアが開いている。訪ねて来たのも年取った女で、中から迎えに出てきている2人も年取った女たちだ。中から出てきた女のひとりは派手な紫に髪を染めてショッキングピンクとグリーンがどぎついワンピースを着ている。わたしだ。

 リオーナもユノユノも黙って写真を見つめていた。
「いやあね」わたしは仕方なく口を開いた。「どういうつもりかしら」
「セレソン、もうおしまい?」ユノユノがさびしそうにつぶやいた。「My Space用に曲も作ったのに」
「ばかね」リオーナが80歳とは思えない張りのある声で言った。「やっとセレソンの活動開始よ。こいつをつかまえましょう」
「探偵をするの?」
「チャーリーズ・エンジェルみたい!」
「わたし、ファラ・フォーセット!」
「ユノユノ、年がばれるわよ」

 やれやれ。わたしは心の中で両手を広げる。これで終わりになるかと思ったのに。写真を撮ってくれた妹に迷惑がかからないようにしなくちゃ。でもまあこれで3人が楽しく過ごせるならそれでもいいか。わたしはただ、毎日3人分の日記を書くのが面倒になっただけなんだけど、しばらくネタには困らなさそうだし。

(「伝言」ordered by tom-leo-zero-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)