◇ 来[3]2009/08/10 08:59:33

 部屋を片付けてさっぱりしたら、景気のいい声が近づいて来た。
「おうっ! どうでい、調子は!」
「さっきまでは良かった」
「いまはどうした!」
「おまえが来たから調子が狂った」
「ぁに言ってやぁんでい。こちとら約束だから来てんじゃねえか」
「何だよ約束って」
「あれだよあれ、あのからっきし何だったべらぼうな何のあれが」
「まあ落ち着きねえ。そんな砂をまき散らされちゃ、せっかく片付けた部屋が台無しだ。まあ水でも飲んで」
「水?」
「ああ水だ」
「水があるのかい?」
「なけりゃあ出さねえよ」
「まいったねこりゃ、へへっ! 水をいただけるんでげすかっときたもんだ」
「そんなタイコモチみたいにならなくても水くらいちゃんと出すよ。ほらちょっとだけど大事に飲みな」
「お、こりゃあ何とも、水のように透き通ってらあ」
「まあ、水だからね」
「たはっ。聞いたかい? 揺らしたら、たぷん、なんて言いやがる」
「そうかい?」
「ほら、たぷん! な、たぷん! おおおっと、いけねえ。危ねえ危ねえ。あやうくこぼしっちまうところだったよ。ぜんてえ、水ってえものは古来、覆水盆に……」
「能書きはいいから早く飲みなよ」
「んじゃあ、遠慮なくいただくよ。んぐっんぐっんぐっんぐ」
「噺家が酒を飲んでるみたいな飲み方をしやがる」
「ぷはあ〜っ。うまいね。こんな純度の高い上物のブツはなかなかお目にかかれねえ」
「おいおい人聞きの悪いことを言わないでくれよ。いま世間じゃそういうの、何かとうるさいんだから」
「安心しろ。尿検査は絶対に断るから」
「だからそういうことを言うんじゃないよ。で、何なんだい、そんな泡食って駆けつけて来て」
「おう、それだ! まあ聞きねえ。こないだ湯島砂丘で見つけたあのケッタイな入れ物覚えてるか」
「うん。薄気味悪いものがいろいろ詰まっていたって」
「おうよ、おれぁホントに驚いたんだが、あれがおめえさんの言ったとおり、やっぱり生き物らしいんだ」
「生き物? 本当に? あれが? 歩き回りでもしたか?」
「冗談じゃねえ。あんなのがうろちょろし始めたらおれぁおっかなくってこうやって外に出てくることもできゃしない」
「じゃあどうして生き物ってわかった?」
「それがさ。あいつら水を吸って育つらしいんだ」
「贅沢なやつだね」
「うちの研究所はほら、金さえかければ水はつくれるからってんで、あいつらにくれてやったんだ。そうしたらどうなったと思う?」
「お礼を言った」
「しゃべらねえよ! あいつらはしゃべらねえよ。人間じゃねえんだから。っつーか、こっちはあれが生き物だってだけで驚いてるんだ。しゃべったらまずそこから話すだろうが」
「じゃあ降参だ」
「大きくなるんだ」
「予想もできなかったな。水を吸って育つって聞いてなければ」
「るせーな。聞いて驚くな。あいつら空気中から炭素を取り込んで大きくなりやがるんだ」
「またまた」
「冗談じゃねえって。どうやってんのかはわからねえが、空気中の二酸化炭素を取り込んで、中でばらして炭素を身体に組み込んで大きくなって、残った酸素を吐き出しているらしい」
「なんだって? 酸素を自力で創り出しているってのか?」
「おうよ」
「んなバカな話があるもんか。そんなものがあったら、おれたちの科学なんていらなくなっちまうじゃねえか」
「間違いない。炭素を取り込んで、酸素を出している」
「信じられんな。どのくらいの勢いで大きくなるんだ?」
「大したことはない。でもなんだか薄気味悪いひらひらした緑色のものをどんどん増殖させているのが気になる」
「緑ってどんな色だ?」
「そうさな、おまえの家なら寝室の壁の色をもうちょっと濃くすると緑だ」
「自然界じゃ見かけない色だな」
「薄気味悪いよ、まったく」
「で、どうする?」
「だから持って来たよ」
「なにをっ?」
「ほら約束だからよ。おまえにやるよ。ほら。この入れ物ごとくれてやる」
「やめろ。悪い病気にでもなったらどうしてくれる」
「えんがちょ切った!」
「んのやろ! 待て! 何しやがんでい、こんな薄気味悪いもの!」

     *     *     *

「おじいちゃん、ひょっとしてそれ」
「ああ、そうだよ。これさ。立派に成長して日陰をつくってくれている」
「おじいちゃんが若い頃には木がなかったの?」
「なかった。こいつが空気中の炭素を溜め込んで、酸素を吐き出してくれて、仲間を増やして、それからだんだん緑色のものが増えだしたんだよ」
「信じられないなあ。で、結局それが入ってた入れ物って何だったの?」
「古代文明の遺物さ。文書も同梱されていてな、判読できた文章にはこうあった。『子孫へ。これに水をやって日の光に当てろ。快適な環境を約束する。』」
「昔の宗教かなにかなのね」孫娘は細かい剛毛に覆われた肢を4本使って、木の葉をかき分けながら言った。「でもわたしたちには酸素が多過ぎるわ」
「まったくだ」8本肢の祖父は複数の目をキラキラさせながら言った。「よくまあ悪い病気にならずに生きて来れたと思うよ。良かったことと言ったらうまい虫が増えたことくらいかな」

(「約束」ordered by tom-leo-zero-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

SFPお題、承ります!2009/02/27 23:13:11

さあ!
Sudden Fiction Project(第3期)のお題募集を開始します。

3/1から連日1日1作ペースで書きまくろうと思っていますので、
どうかみなさん遠慮なく次から次へとお題を投げてくださいませ。
次から次へと書き上げてあなただけの小作品をプレゼントいたします。
通算300作品に到達するまで脇目もふらず書きまくります。
出血大サービス大盤振る舞いの大放出大会です。

お題は頂戴してもお代は頂戴しない、
いつもながらのシステムですのでご安心を!

こう書くと、いろんな仕事から解放されて
のびのび羽を伸ばしているみたいですが、実はその真逆です。
とっくに終わっているべき仕事がどんどんスケジュールがずれ込み
なんだか打ち合わせが無意味に険悪になったりするような仕事が
一つ二つではないという、まれに見るどん底どん詰まり状況です。

こういうときはね、もうね、やるしかないんです。
脳みその大攪乱を起こすしかないんです。
というわけではっきり言って燃えてます。

同様な募集をmixiでもやりますが、
mixiで受けたお題はmixiで、
ブログで受けたお題はブログで発表します。
どちらでもお好きな方をご利用ください。

3月1日から第3期スタートします。2009/02/15 22:58:09

というわけで、間もなくお題も募集しますが、
気分的に「もらったらすぐ書く」という感じでやりたいので、
募集開始は2月末が迫ってから。たぶん2/28にお題募集します。

発表はmixiで、と思いつつ、
第3期はここで発表してもいいかなとも思いつつ。
両方に貼りにくるのは面倒くさいなあと思いつつ。

そのあたりの方針を半月かけて考えます。



        風雲急を告げてる感じ。特に意味なし。→

【お題76】空心菜2008/02/15 00:22:03

「空心菜」と言う言葉がどこかに出てくる作品をお待ちしています。
タイトルに限らず、本文中のどこかに1回出てくればOKです。

作品の最後に
(「空心菜」ordered by aisha-san/text by あなたのペンネーム)
とつけてください。これはお題を出した人への礼儀と言うことで。




====================
◇ 芯があるか

 新しい下宿人が入ってから、どうも話がややこしくて仕方がない。

「どうです空き部屋は。なんとかなりそうですか」
「おかげさまで決まりました」
「そりゃあ良かった。どちらの方?」
「どちらっていうか、空心菜なんですよ」
「誰?」
「誰じゃなくて。空心菜」
「変わった名前の方で」

 正真正銘の空心菜だということがなかなか理解して貰えない。

「名前というか、ええと」
「どんな人?」
「だから人じゃなくて空心菜」
「なにを?」
「空心菜」
「ああ。ははあ。それはまたあの随分とその古風な感じですな」
「え?」
「やっぱりあのお武家さんか何かで?」
「オブケサン」
「武道の方をたしなんでおられるとか」
「ブドウ?」
「講談師さんだったりして。一龍斎とかいますよね」
「だから名前じゃないんです。ほらあの中が空洞になった」
「ははあ。つまり口から肛門までを結ぶ空洞であるところの消化器官は体内でありながら身体の外でもあると、そういうことですか」
「そういうムズカシイ話じゃなくて、中国野菜の」
「それはどういう比喩ですか?」

 なかなか通じない。それだけならまだいいのだけれど、空心菜自身がまた変わっている。日中は仕事を探していると言って朝早くに出ていくのだが、夕方まだ早い時間になると帰ってきてひとしきりわたしと話し込んでいく。

「いやなかなか難しいですね。仕事を見つけるというのも」空心菜はやれやれというように葉っぱを広げて下宿のたたきでため息をつく。「だめですかねやっぱり日本人じゃないと」
「日本の方じゃないんですか?」
「当たり前でしょう。中国野菜ですよ」
「でも日本語がお上手だし」
「いろいろ苦労しているんですよ、これでも」爽やかに笑って、それから尋ねてくる。「大家さんはどう思います? やっぱりIT系とか狙うべきですかね」
「さあ」そういうことは人間から尋ねられたって本当にわからないので首をひねるしかない。「わたしにはわかりませんねえ」
「あーあ。これでも結構いいところあるんですけどね」
「いいところを上手にアピールするといいんじゃないですか?」
「『こう見えて芯がしっかりしてます』なんてね。芯はないんですけど、うぷぷぷぷ」
「あ、は、は」こういう冗談にどう付き合えばいいのかわからない。「そうやって受けを狙うのもいいかもしれませんね」
「ま、最悪、大家さんに食べて貰うしかないかなあ。どうです、今晩あたり?」

 空心菜に誘惑されているらしい。

「よしてくださいよ趣味の悪い」
「趣味が悪くなんかありませんよ。だって空心菜ですよ。食べるのが普通でしょう」
「でも下宿していただいた空心菜を食べたことはありません」
「気にしなくていいですって。煮てよし、炒めてよし。なかなかおいしいんですよ。特に芯のところが。うぷぷぷぷ」

 中味が空っぽだから軽薄なのか、軽薄だから中味が空っぽになったのか、とにかく空心菜には振り回されっぱなしである。

(「空心菜」ordered by aisha-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

【お題61】そこをなんとか2008/01/30 07:24:51

「そこをなんとか」と言う言葉がどこかに出てくる作品をお待ちしています。
タイトルに限らず、本文中のどこかに1回出てくればOKです。

作品の最後に
(「そこをなんとか」inspired by sachiko-san/text by あなたのペンネーム)
とつけてください。これはお題を出した人への礼儀と言うことで。




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◇ ネゴシエーター

「いくら賞美堂さんの頼みでもね、これは頼まれたからどうなるって話じゃないんだ。できないものはできませんな」
「そこをなんとか」
「わからない人だな。重さで2mg、サイズで12mm、ここまで削れたのが奇跡と言っていい。何べん頼まれたってもうこれ以上はどうにもならないところまでやっているんですから」
「そこをなんとか」
「あのね。ぎりぎりまで調整して、以前の構成を完全に見直してパーツの配置までミクロ単位で調整してようやっとここまできたんだ。それをそういう風に、まるでいままで何にもしていなかったみたいないわれ方をすると、あたしだっていい顔ばっかりしていられませんよ」
「そこをなんとか」
「だいたいね。賞美堂さんとはお父さんの代からのお付き合いだから、今までだってそれは大抵のことは何とかしましょうってやってきましたがね、うちだって道楽でやってんじゃないんだ。できるできないの線引きはきちんとさせて貰いますよ」
「そこをなんとか」
「いい加減にしろっ! なんだ、甘い顔してたらつけあがりやがって。だいたいこんなの最初から無理だってわかってたんだ。それでもあんたの顔を立ててやりたいと思うからこうやって、大のオトナが5人がかりで半月間、ほとんどろくに休みも取らずに精度を上げてきたんだ。あんたはうちの大事な働き手をつぶそうってのかい!」
「そこをなんとか」
「ばか言っちゃいけねえ。あたしだってもうこれ以上あいつらを一秒たりとも引き留められませんよ。たりめえでしょうが。こんだけこき使っておいて、限界の限界まで身を削るようにしてやってきて何だその態度は。帰って貰おうじゃないか」
「そこをなんとか」
「くどいぞ! たいがいにしろ。え? 出てけ。出ていきやがれ。おい。おーい。賞美堂さんがお帰りだ。塩持ってこい。後からまいてやる。ざけんじゃねえ。顔も見たくねえ。二度と来るなってんだ」
「そこをなんとか」
「どうにもならんって言ってるのがわかんねえのか。ルーバー構造の三層展開もピペリット三角の不正乖離も全部試したんだ。言っちゃあ何だが、こんなことできる工場が日本にいくつある? うちでできなきゃもうどこでもできやしねえ。さあ帰んな。とっとと出ていきな」
「そこをなんとか」
「しつこいな。悔しかったらピペリット三角の鏡面体を精製できる工場を探してみろってんだ。うん? 鏡面体? 鏡面体はまだ試していなかったな。でも同じことだ。サイズも重さも変わらないわけだからな。さあ諦めるんだな。ほら帰った帰った。しっしっ」
「そこをなんとか」
「鏡面体の件だけは考えてやるが無理に決まっている。だって12月の『月刊擬宝珠サイエンス』にも論文が確かサンタフェ研究所のゴディモフ教授以下の研究ってことで、ほらここに載ってるだろう。不正乖離は少数の例外を除いて、鏡面体同士は全く同サイズ同質量だ。何にも変わりっこない」
「そこをなんとか」
「確かに論文の付記には、以前ジュネーブのピケロゾヴァ教授が微小鋼の位相変換について。あ。いやしかしあれはまだ追試験レベルで確立された手法じゃ」
「そこをなんとか」
「もちろんうちの施設があればそこまでは試して試せなくはないが、あんたそんなの天文学的確率にかけるような話だぜ。正気の沙汰じゃねえ」
「そこをなんとか」
「そうなると電力は今までのざっと3倍はかかるし、材料もけちけちしたことを言わず一気に一桁増やして進めなくちゃならないのはわかってんのか。人件費だってバカにならねえし、賞美堂さんにしたって現実的じゃないだろう」
「そこをなんとか」
「しょうがねえなあ。わかった。わかりましたよ。でもあんたもとことん強情だね。今回はあんたにすっかり丸め込まれちまったが、いいかい。こんなこともうないからね。いやしかし賞美堂さんにはかなわねえなあ」

(「そこをなんとか」inspired by sachiko-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

【お題60】転生2008/01/29 10:22:40

「転生」と言う言葉がどこかに出てくる作品をお待ちしています。
タイトルに限らず、本文中のどこかに1回出てくればOKです。

作品の最後に
(「転生」ordered by shirok-san/text by あなたのペンネーム)
とつけてください。これはお題を出した人への礼儀と言うことで。




====================
◇ 転生

 ある朝、嫌な夢から目覚めるとぼくはベッドの中でグレゴール・ザムザになっていた。
 最初のうちは自分ではどうとも思わずにごろごろしていたのだが、ふとした瞬間に腕を見て、一夜にして毛むくじゃらになっているので驚いて飛び起きた。起きて自分の身体をチェックしていると、胸毛も濃く、胸毛どころか全身に茶色っぽい体毛が生えていてあ然としているところに、母がノックもせずにドアを開けて入ってきた。
「ヒロシ、いつまで寝ているの!」
「ノックしてから入れって言ってるじゃん!」と言ったつもりだったが、口から出てきたのは知らない言葉だった。印象で言えばドイツ語みたいな感じだったがよくわからない。
「あ。すみません!」と言ってお辞儀をして母は出ていきドアをしめてしまった。

 まだ状況がわからずにいたものの、何か自分の身体に異変が起こったことはわかった。ベッドから降りてクローゼットのドアについた鏡の前に立った。白人がいた。
「あ。すみません!」思わずお辞儀をして母と同じ言葉を口にしようとしてまたドイツ語らしきものを口走り、鏡の中の白人が同じようにお辞儀をするのを見て、さすがに気がついた。この白人がぼくだ。
「ナイン!」これはぼくにもわかった。ノー!ということだ。「ナイン!」
 その後に続く罵り言葉風のものは聞き取れなかったが、ぼく自身としては「マジかよ!なんなんだよこれ。どうなってんだよクソ」と言ったつもりだった。

 転生だ。とっさにぼくは思った。これは転生だ。このまま学校に行ったらどうなる? 転校生だ。いやちがう。ぼくはぼくだ。転校生なんかじゃない。というか転校生になるためには何か手続きをしなくてはならないはずだが、ぼくは自分が誰かもわからない。だったら転校生にもなれない。じゃあぼくは何だ。そう思ったとき、目の前のカバンに名前が書いてあるのに気づいた。

 グレゴール・ザムザ。さすがのぼくにもその名前は読みとれた。『変身』じゃん! そう思った瞬間、気がついた。そうだ。これは変身だ。転生じゃない。ということは転校生でもないということか? いやそれは関係ない。転校生は転校生かも知れない。というか何を考えているんだ?

 お腹がすいたので着替えて下の階に降りていくと、母がおどおどしながら朝食を準備してくれた。何か話しかけたそうだが、何と言っていいのか思いつかないらしい。パンをむしゃむしゃやっていると、不意に腹を決めた様子で母が口を開いた。
「あの。ヒロシは」
「おれにもわかんねーよ」
と、言おうと思ったがやっぱりドイツ語みたいな言葉しか出てこなかった。
「アイキャントスピークイングリッシュ!アイキャントスピークイングリッシュ!」と母が叫んだ。
 英語じゃないよ。ドイツ語なのに。

(「転生」ordered by shirok-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

【お題35】リクルートスーツ2007/12/31 09:26:01

「リクルートスーツ」と言う言葉がどこかに出てくる作品をお待ちしています。
タイトルに限らず、本文中のどこかに1回出てくればOKです。

作品の最後に
(「リクルートスーツ」ordered by あべっちょ-san/text by あなたのペンネーム)
とつけてください。これはお題を出した人への礼儀と言うことで。




====================
◇ セールストーク

店員「スーツをお探しですか」
客「ええ。まあ」
店員「リクルートスーツ」
客「ああ。はあ」
店員「どういったものをお探しですか」
客「いやまだ特に」
店員「個性的なものを」
客「個性的って言うか」
店員「ありきたりなのを」
客「いや、あんまりありきたりでない方が」
店員「ではこちらなどいかがでしょう?」
客「女性用じゃないですか」
店員「ありきたりじゃないですよ」
客「そこまで個性的でない方が」
店員「女性用の中では地味な方です」
客「そういうことじゃなくて」
店員「ではこちらなどいかがでしょうか」
客「ああ。いいですねえ」
店員「裏地にバリ在住のアーティスト、ウギャン・グン・デルエさんの傑作『極彩色の歓喜』をあしらってみました」
客「いらないですから。裏地にそんな派手な絵、要らないですから」
店員「裏地はない方がいいんですか。寒いですよ」
客「いや。裏地は要りますよ。そういう派手な絵は……だって必要ないでしょう!」
店員「ははあ。すると表も裏もありきたりでなく個性的すぎずというあたりですね」
客「ええ、まあ」
店員「これなどいかがでしょうか」
客「……いい、感じだと、思いますけど」
店員「私がデザインしました」
客「ええっ?」
店員「いけませんか」
客「いけなくはないけど」
店員「お客さん、こういう話をご存じですか」
   非常に長い間。
客「えっ? 何? あ。返事待ってんの? 何だよそれ」
店員「こういう話をご存じですか?」
客「……こういう話ってどういう話ですか」
店員「リクルートスーツ棺桶説です」
客「棺桶!?」
店員「ここに2つの棺桶があります」
客「はあ」
店員「1つはマホガニー製で職人の手になる精緻な細工が施された非常に豪華な棺桶です」
客「ああ。はあ。」
店員「もう1つはぺらぺらの段ボールでできた間に合わせの棺桶です」
客「そんな棺桶はないでしょう」
店員「あるんです」
客「いやないでしょう」
店員「それがあるんですよ」
客「いくら粗末でも段ボールって」
店員「まあいいでしょう。そのうちわかりますから」
客「わかんないって! そのうちも何もわかんないって!」
店員「ではもし、この豪華な棺桶を見たらあなたは非常に立派な人物が、あるいは極めて裕福な人物がそこに眠っていると思うでしょう?」
客「まあ、はあ、そうですね」
店員「ところがバッ! 開けてみる。何だ! つまらないやつだ。そんじょそこらにいくらでも転がっている冴えないうだつの上がらない機転の効かない出世街道からも見放されたうらぶれた一束いくらでたたき売りされているような平々凡々の親父だ。どう思います?」
客「どう……って」
店員「食べたいと思いますか」
客「はあ?」
店員「やっぱり栄養をタップリ摂って、脂がのってて、食べごたえのある金持ちでなくちゃ」
客「何言ってるんですか」
店員「冗談ですよ、お客さん」
客「当たり前でしょう!」
店員「棺桶だけ立派でもダメってことです。中身が伴っていないのに棺桶だけ立派にしても、がっかりさせるだけ、いざふたを開けたときの失望が大きくなるだけなんです」
客「ああ。なるほど。無理に自分を良く見せようとしないで、身の程にあったのがいいってことですね」
店員「よくおわかりで」
客「うん、まあ納得が行きました」
店員「ではお客さん、どうぞこちらに」
客「え? あ、はい」
店員「お客さんだけに特別にお見せしたいものが」
客「はあ、ありがとうございます。何ですかここは」
店員「これなどいかがでしょう。あまり派手すぎず、でもそれなりのファッションへのこだわりを感じさせるデザインになっています」
客「これって、え? 何?」
店員「納得行ったんでしょう。買っちゃいましょうよ」
客「これ、だって……」
店員「そうそう。これがほら、段ボールの」
客「か、棺桶じゃないですか!」
店員「ね、あったでしょう? 段ボール製の棺桶」
客「そういうことじゃなくて」
店員「私がデザインしました」
客「いいかげんにせいっ!」

(「リクルートスーツ」ordered by あべっちょ-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

【お題21】カウントダウン2007/12/17 07:26:53

「カウントダウン」と言う言葉がどこかに出てくる作品をお待ちしています。
タイトルに限らず、本文中のどこかに1回出てくればOKです。

作品の最後に
(「カウントダウン」ordered by 花おり-san/text by あなたのペンネーム)
とつけてください。これはお題を出した人への礼儀と言うことで。



==========
◇ 晴れ舞台

「いやしかし暮れやねー」
「ほんまやねー暮れやねー」
「めっちゃ冷えてきたなー」
「ほんまほんま冷えてきたわ」
「昼間、道歩いとったら突風がぶわってきて」
「そうやそうや突風がぶわってきて」
「……すうって引っ込んでったなあ」
「ああそうやった引っ込んでったわ」
「かと思ったら角のところでクワドラプル」
「そうやったクワドラプル」
「ほねほねマンがそれを見てバケツをペンギンさんの行列にどーん」
「ああバケツをペンギンさんの行列にどーんってな」
「……知ってるか? 今日なんかあれですで。一年で一番!」
「ああそうそう一年で一番!」
「なんや。言うてみ」
「なんやのん。君、言うてえな」
「君、言うたりいな」
「なんでやねん。そこは君が言うとこやろ」
「いやいや、ここは君に譲ったるから」
「いらんわ。知らん人からものもろたらあかんてオカンに言われとんねん、子どものころから」
「知らん人やないやろ、君とぼくで」
「いいや。知らんで君のこと」
「知らんことないやろ15年もやってきて」
「何を」
「何をって漫才やがな。コンビやがな」
「何やそれ。してへんで、そんなん」
「何を言い出すんや君は。小学校以来のつき合いやないか」
「やめてください、そういう無理難題を言うのは」
「あほか。ぼくが伯爵で、君が下々の者、二人合わせて」
「いやもう何のことかさっぱり」
「ていうかほんなら今ここで何しとんねん」
「通りすがりの人と会話してるんやがな」
「通りすがりて! ぼくをつかまえて通りすがりの人かい!」
「もうカンベンしてもらえます? ぼく急いでるんです」
「何で敬語やねん」
「そういう宗教とかアンケートとかはほんま母に止められているんです」
「誰が宗教やねん。それも母って。初めて聞いたわ君の口から」
「アイドルになる気もありませんし」
「言うてへんて」
「ほな行きますんで」
「待ちいな」
「もう、ほんまあきまへんねん」
「何が」
「行かなあきまへんねん」
「どこへやねん」
「十数えたら、もう行きますで」
「どこへやねん」
「10、9」
「あのなあ。困んねんって」
「8、7」
「マジで、なあ。お前おらんようなったら」
「6、5」
「他に仕事ないし。待てやこら」
「4、3」
「おれ一人でどないすればええねん」
「2、1」
「だからどこ行くねん!」
「来年へ! ゼロ」
二人「あけましておめでとうございまーす!」
「いやあ、これでまた年末まで仕事ないなあ」
「そろそろコンビ名、変えよか」
「それ、去年も言うとったわ」
二人「どうもカウントダウンでしたー」

(「カウントダウン」ordered by 花おり-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

【お題12】骨2007/12/09 00:04:15

「骨」と言う言葉がどこかに出てくる作品をお待ちしています。
タイトルに限らず、本文中のどこかに1回出てくればOKです。

作品の最後に
(「骨」ordered by shirok-san/text by あなたのペンネーム)
とつけてください。これはお題を出した人への礼儀と言うことで。




====================
◇ 207個ある!

「207個ありますな」医師がいった。「1つ多い」
「何がでしょう?」あなたは聞き返す。
「骨の数です。1つ多い」
「骨の数?」
「そう。人体の骨の数は決まっておってな、大きな人でも小柄な人でも206個だ。しかしあなたは違う。1つ多い」
「待ってください。どういうことです。1つ多いって」
「207個あるんですな。1つ多い」
「いやいや」あなたは答える「いやいやいや。それはわかってますって。だからええと」
「1つ多い」
「ええ。それはわかりました。だから、あの、どこの骨が多いんですか?」
「えへん」医師は咳払いをした。もう2度。「えへんえへん」
 間があいた。
 あなたは気がつく。医師は返事する気がないのだ。
「どこの骨が多いんですか、先生。それに1つくらい個人差で」
「なるほど個人差で個数が違う場合が確かにありますな」我が意を得たりと医師は言う。「生まれたての赤ん坊などはまだくっついていない骨が方々にあるのでざっと300個くらいある。これがだんだん癒合していって数が減り、不思議なもので大人になると206個になる。たいていは。しかしもちろん個人差はある」
「なるほど」あなたは安心して少し笑う。「じゃあ滅茶苦茶珍しいってことでは、ないんですね」
「滅茶苦茶珍しいですな」こともなげに医師は言い放つ。「極めてもうベラボウに」
「どうしてですか!」あなたはだんだん腹が立ってくる。「どうしてそんな、ベラ……珍しいんですか」
 医師は手元のカルテをちらっと見る。けれどもその動作に特に意味はない。なぜならカルテにはまだ何も記入されていないからだ。
「電子カルテというものがあって……」
「どうして珍しいんですか!」医師が話をそらそうとしているのに気づいてあなたは詰め寄る。「先生、質問に答えてください!」
「わからない」
「は?」
「どこの骨が多いかわからない」
「わから……じゃあなんで」
「でも数えたら207個ある」
「はい?」
「座敷わらしだ」
「座敷?」
「『11人いる!』みたいなものだ」
「11人?」
「萩尾望都だ」
「そうじゃなくて、なんですそれは」
「宇宙船の中に10人の受験生が」
「そうじゃなくて! どこの骨が多いかわからないと言うのは、どういう」
 医師はじろりとあなたを見つめ、言葉を探すようにしながら言う。
「あれは、読んでおいた方がいいですぞ」
 萩尾望都の話をしている!
「骨の話をしてください!」
「あ」医師はわざとらしくモニターをのぞきこみ、こちらを振り向き、大袈裟に何度もうなずきながら言う。「間違えた。間違えました。206個です。どこも悪くない。だからもう大丈夫。お大事に」
 そういうわけであなたは病院から追い出され、これからの人生を207個の骨と過ごすことになる。どこにあるのかわからない、1つ多い骨とともに。

(「骨」ordered by shirok-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)