◇ ぼくが今ここにいる意味2011/05/29 08:35:04

 晴れた日は明るくなる頃に目を覚ます。明るくなるから目を覚ますのか、小鳥たちが活動を開始する気配に目を覚ますのか。とにかくそろそろ太陽が顔を出す直前に目を覚ます。洗面器に少し水を張り顔を洗った水で口をすすいでうがいもする。その水は表の菜園にまく。どんなに僅かな水も貴重だ。赤い首を覗かせ始めたラディッシュを掘り出し、丁寧に布で拭って塩をふってかじる。

 簡単な朝食を終えると家族に声をかけて表に出る。行ってらっしゃいとかすかに聞こえた気がする。歩いて行くと何人か顔見知りの人に会い、おはようございますと挨拶をする。みんな日に焼けて、口を開けると歯が白く、総じてまぶしそうな顔つきをしている。今日はCの11を探そう。Cの11というのはぼくが勝手につけた区画番号で他の人には通用しない。たまに手伝いにきてくれる学生たちは理解してくれる。

 Cの11はかつて商店街だった一角だ。明らかに元々この場所にあったとおぼしきものもたくさん見つかるが、もちろんそれだけではない。あの日、この場所は何度も潮に洗われ、山の麓に建ち並ぶ住宅地にあったものも、海岸だった場所にあったものも、遥か沖合にあったものも、それどころか、どこか他の村や町にあったものも、何もかもが呑み込まれ混ぜ合わされそして出鱈目にぶちまけられたのだ。

 一つの区画は10メートル四方に決めている。理由はそんなにない。何も見逃さないように丹念に見て回るとそれで一日終わってしまう、そのくらいのサイズだ。始めの頃は当てもなく探しまわるしかなかった。家を中心に浜辺と高台の麓を何度も往復しながら、目につくものを動かし、物陰を覗き込み、覆いかぶさったものをとりのけた。

 家から1キロ近く離れたところで時計を見つけた時には息が止まるかと思った。それは娘がまだ幼稚園に通っていた頃、娘からという名目で誕生日に家人からプレゼントされたものだった。けれどもそのようなやり方ではどうしても見落としが出て来ることにも気づかされた。時計にしたってたまたま転んだ指先に、泥の中の固いものが当たったから見つけたのだ。転ばなかったら見つけられなかった。

 そう気づいて、その日からやり方を変えることにした。区画を決めて順番に虱潰しに探す。1メートル角の木枠をこしらえ、それを運び、その日探すエリアに持ち込む。平らな場所には木枠を置き、木枠の中を納得行くまで探す。建物やその残骸が形をとどめているところもできるだけ枠単位で納得行くまで探す。

 これを100回繰り返すと1日が終わる。肉体的にもハードだが、精神的にもかなりこたえる。たくさんの人のたくさんの思い出に否応なく触れることになるからだ。食器類にはなぜかはっとさせられる。箸置きを見るとつらくなるのは妻が箸置きを集めていたことを知っているからだろう。ランドセルや教科書のたぐいも胸がつぶれそうになるが、実際には子どもたちはもうとっくに小学校を卒業している。下の息子だってこの春高校に入るはずだった。

 そういったものを見つけても何もできない。できるのは、持ち主が無事でありますようにと祈ることだけだ。たまたまこれがここにあることを知らないから、知っていても持って行けなかったから、ここに放置されているのだろうと。そして、もし不幸にも命を落としているのなら、どうか安らかに眠りますように。君のランドセルはおじさんが泥を拭っておいたからね。

 家族の元を離れて何年にもなる。正直な話、あの日までは戻るつもりもなかった。けれどもニュースで故郷が失われて行く映像を見て、たまらなくなって戻ってきた。避難所を回り、おびただしい数の遺体を確認し、家族がどこにもいないことを知って町に戻った。自分の家の在り処を探すことさえままならなかった。道も、郵便局も、角の果物屋も、何の手がかりもないのだ。そこが自分の町なのかどうかすら確信を持てなかった。ようやく自分の家の場所を探し当てた時には大声を上げて泣いた。あたりのものを動かし、泥を掘り、その場所には家族がいないことを確認するのに1週間かかった。

 残骸を利用して小屋をつくりその場に住み着くことにした。同じようなことをしている人が何人もいて知り合いになり、お互いに助け合って暮すようになった。この数年間、ぼくは山中でひとりサバイバル生活をしていた。だから一人で生き抜くことは何とかできる。掘り返すものの中には家庭園芸用の野菜類の種などもあり、ありがたくいただいて栽培している。そうして遅ればせながら捜索を始めた。こんな生活をいつまでも続けられないことはわかっている。けれどいまぼくにはこうすることしかできない。今日、それを確信した。

 Cの11を終えようとした時、一冊のよれよれの冊子が目に入った。どことなく見覚えがあったので手に取ると、それはぼくが卒業した年の高校の生徒会誌だった。これがぼくのものか同級生のものかは分からない。けれどまぎれもなくあの年の生徒会誌だった。水にぬれ、ごわごわになったページをめくり、目次に自分の名前を見つけて思い出した。すっかり忘れていたが、当時ぼくは生徒会誌にふざけたエッセイとも小説ともつかぬものを投稿し、それが掲載されていたのだ。

 読むに耐えない文章のおしまいの一節にこうあった。「おれはどうもスポーツでも音楽でもたいしたプレイヤーにはなれそうもない。でもおれはめざす! ベストプレイヤーをめざす! 一文字変えて“祈る人”のプレイヤーだっ!」

 当時は気の利いたことを書いたつもりだったんだろうが、なんとも冴えないダジャレに過ぎない。でもそこには、いまのぼくにできることが書かれていた。ぼくは恐ろしく無力だけど、毎日ひと区画をあらためて回り、そこで見つかったもの一つ一つに祈りを捧げることはできる。無事を祈り、平安を祈り、ものごとが少しでもよくなるようにと祈ることができる。どのような形であれ家族と再会するまで、それがぼくが今ここにいる意味だ。

(「生徒会誌」ordered by こあ-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

◇ 某2009/12/31 08:21:05

○男の回想
子ども(女1)「かあさん、この木はなんて木?」
母(男1)「樫だよ、なにガシ」
子ども「ナニガシ?」
母「そう、ナニガシ」
子ども「ナニガシっていうの?」
母「うるさいね。そう言ってるだろう」
子ども「じゃあ樅の木じゃないの?」
母「モミノキ? モミノキじゃないねえ」
子ども「じゃあクリスマスツリーにはできないの?」
母「クリスマスツリー? どうしてまたクリスマスツリーになんかするのさ」
子ども「クリスマスの飾り付けをしたいから」
母「どうしてまたクリスマスの飾り付けなんかしたいのさ」
子ども「クリスマスだからだよ」
母「じゃあ何かい? クリスマスだったらみんな飾り付けしなくちゃならないのかい?」
子ども「みんなしてるじゃないか」
母「みんながしてたらあんたは人だって殺すのかい?」
子ども「殺さないよ。それにみんなは人を殺してなんかいないよ」
母「おだまり!」
子ども「……」
母「おしゃべり!」
子ども「え?」
母「だまってないでしゃべりなさい場が持たないから!」
子ども「そんなあ」
母「うちはね」
子ども「え?」
母「うちはクリスマスはやらないからダメだよ」
子ども「どうして? どうしてやらないの?」
母「うちはイスラム教だからね」
子ども「ええ?」

○現在
男1「それがきっかけ」
女1「それがきっかけ?」
男1「そう。そんな風にしておれはムスリムになったんだ」
女1「なーんだ」
男1「なーんだって何だ」
女1「だってそれ、冗談でしょ?」
男1「ちっちっち。おまえはおれのおふくろを知らないからそんなことが言えるんだ」
女1「なに、 どういうこと」
男1「本当に改宗したんだ」
女1「本当に改宗した?」
男1「次の日の朝、おふくろは近所のモスクに行って改宗の手続きをしてきた」
女1「そんな。区役所の窓口じゃないんだから」
男1「甘いな」
女1「甘い?」
男1「イスラムに改宗するのは簡単なんだ」
女1「うわー嘘っぽい」
男1「マジだって。本当はモスクに行かなくったってできる。二人以上のムスリムの前で信仰告白をすればいい」
女1「信仰告白?」
男1「アシュハド・アン・ラー・イラーハ・イラーッラー、アシュハド・アンナ・ムハンマダン・ラスールッラー」
女1「ええと、イチ、イチ、なんだっけ」
男1「なにしてんの」
女1「救急車、呼ぼうと思って」
男1「イスラム教の信仰告白だ。『アッラーのほかに神はない。ムハンマドはアッラーの使徒である』ってね」
女1「でも先輩が入信したわけじゃないんでしょ?」
男1「親がムスリムなら子どもは自動的にムスリムなの」
女1「いやならやめればいいのに」
男1「別にいやじゃなかったからな」
女1「それほんとですか?」
男1「本当だ」
女1「適当に言ってませんか、その、ラーラーとか言うの」
男1「え? 信仰告白を疑ってんの?」
女1「っていうか、全部」
男1「いいんだけどさ。それが、ほら、飲めない理由」
女1「なんかすっきりしないなあ」
男1「おい。人の宗教つかまえてすっきりしないって」
女1「普通に『クルマ乗ってきた』とか言われた方がわかりやすいんですけど」
男1「クルマ乗ってねーし、マジ、ムスリムだし」
女1「ふーん」
男1「あれー。信仰の話をしてこんなテキトーな反応がかえってくるのは日本くらいだぞ」
女1「うん。でも、まあ」
男1「まあいいや。じゃあおまえは?」
女1「え? 何が?」
男1「おまえのクリスマスの思い出」
女1「いいですよ私は」
男1「よかないよ。おまえが子どものころのクリスマスの思い出話しませんかって言ったんだろ?」
女1「言ったけど」
男1「言ったけど、なんだよ」
女1「なんか思ってたのと、違うし」
男1「じゃ、どういうの思ってたんだよ」
女1「えー。そうだなあ」

○女の回想
兄(男1)「バカだなあミホは」
妹(女1)「いるもん」
兄(男1)「いるわけねーじゃん」
妹(女1)「だっているもん」
兄(男1)「俺、去年見たもん」
妹(女1)「何を?」
兄(男1)「おかあさんが夜中にこっそり」
妹(女1)「見てないくせに」
兄(男1)「見たんだって」
妹(女1)「ミホは見てないもん」
兄(男1)「だから俺が見たんだって」
妹(女1)「ミホはお兄ちゃんが寝てたの見たもん」
兄(男1)「そりゃ寝てるときもあったけど」
妹(女1)「ずっと見てたもん!」
兄(男1)「寝ないで見てたのかよ」
妹(女1)「ミホは寝ないで見てたもん!」
兄(男1)「サンタも来なかったろ」
妹(女1)「お兄ちゃんのバカ!」
兄(男1)「おい泣くなよ」
妹(女1)「泣いてないもん!」
兄(男1)「泣くなって」
妹(女1)「サンタさんいるもん!」
兄(男1)「あー」
妹(女1)「なに?」
兄(男1)「あれかもしれない」
妹(女1)「あれって?」
兄(男1)「妖精だったかも」
妹(女1)「ようせい?」
兄(男1)「おれが見たの、妖精だったかも」
妹(女1)「なんで妖精なの?」
兄(男1)「あれだよ、サンタさんの手下」
妹(女1)「サンタさんに手下がいるの?」
兄(男1)「だってほら、一晩で世界中の子どもたちに配るわけだから」
妹(女1)「ふーん」

○現在
男1「どうした」
女1「ん?」
男1「おまえの思い出話は?」
女1「やっぱやめた」
男1「なんで」
女1「なんかフツーなんだもん」

(「妖精」ordered by Buy on dip かりん。-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

◇ 来[3]2009/08/10 08:59:33

 部屋を片付けてさっぱりしたら、景気のいい声が近づいて来た。
「おうっ! どうでい、調子は!」
「さっきまでは良かった」
「いまはどうした!」
「おまえが来たから調子が狂った」
「ぁに言ってやぁんでい。こちとら約束だから来てんじゃねえか」
「何だよ約束って」
「あれだよあれ、あのからっきし何だったべらぼうな何のあれが」
「まあ落ち着きねえ。そんな砂をまき散らされちゃ、せっかく片付けた部屋が台無しだ。まあ水でも飲んで」
「水?」
「ああ水だ」
「水があるのかい?」
「なけりゃあ出さねえよ」
「まいったねこりゃ、へへっ! 水をいただけるんでげすかっときたもんだ」
「そんなタイコモチみたいにならなくても水くらいちゃんと出すよ。ほらちょっとだけど大事に飲みな」
「お、こりゃあ何とも、水のように透き通ってらあ」
「まあ、水だからね」
「たはっ。聞いたかい? 揺らしたら、たぷん、なんて言いやがる」
「そうかい?」
「ほら、たぷん! な、たぷん! おおおっと、いけねえ。危ねえ危ねえ。あやうくこぼしっちまうところだったよ。ぜんてえ、水ってえものは古来、覆水盆に……」
「能書きはいいから早く飲みなよ」
「んじゃあ、遠慮なくいただくよ。んぐっんぐっんぐっんぐ」
「噺家が酒を飲んでるみたいな飲み方をしやがる」
「ぷはあ〜っ。うまいね。こんな純度の高い上物のブツはなかなかお目にかかれねえ」
「おいおい人聞きの悪いことを言わないでくれよ。いま世間じゃそういうの、何かとうるさいんだから」
「安心しろ。尿検査は絶対に断るから」
「だからそういうことを言うんじゃないよ。で、何なんだい、そんな泡食って駆けつけて来て」
「おう、それだ! まあ聞きねえ。こないだ湯島砂丘で見つけたあのケッタイな入れ物覚えてるか」
「うん。薄気味悪いものがいろいろ詰まっていたって」
「おうよ、おれぁホントに驚いたんだが、あれがおめえさんの言ったとおり、やっぱり生き物らしいんだ」
「生き物? 本当に? あれが? 歩き回りでもしたか?」
「冗談じゃねえ。あんなのがうろちょろし始めたらおれぁおっかなくってこうやって外に出てくることもできゃしない」
「じゃあどうして生き物ってわかった?」
「それがさ。あいつら水を吸って育つらしいんだ」
「贅沢なやつだね」
「うちの研究所はほら、金さえかければ水はつくれるからってんで、あいつらにくれてやったんだ。そうしたらどうなったと思う?」
「お礼を言った」
「しゃべらねえよ! あいつらはしゃべらねえよ。人間じゃねえんだから。っつーか、こっちはあれが生き物だってだけで驚いてるんだ。しゃべったらまずそこから話すだろうが」
「じゃあ降参だ」
「大きくなるんだ」
「予想もできなかったな。水を吸って育つって聞いてなければ」
「るせーな。聞いて驚くな。あいつら空気中から炭素を取り込んで大きくなりやがるんだ」
「またまた」
「冗談じゃねえって。どうやってんのかはわからねえが、空気中の二酸化炭素を取り込んで、中でばらして炭素を身体に組み込んで大きくなって、残った酸素を吐き出しているらしい」
「なんだって? 酸素を自力で創り出しているってのか?」
「おうよ」
「んなバカな話があるもんか。そんなものがあったら、おれたちの科学なんていらなくなっちまうじゃねえか」
「間違いない。炭素を取り込んで、酸素を出している」
「信じられんな。どのくらいの勢いで大きくなるんだ?」
「大したことはない。でもなんだか薄気味悪いひらひらした緑色のものをどんどん増殖させているのが気になる」
「緑ってどんな色だ?」
「そうさな、おまえの家なら寝室の壁の色をもうちょっと濃くすると緑だ」
「自然界じゃ見かけない色だな」
「薄気味悪いよ、まったく」
「で、どうする?」
「だから持って来たよ」
「なにをっ?」
「ほら約束だからよ。おまえにやるよ。ほら。この入れ物ごとくれてやる」
「やめろ。悪い病気にでもなったらどうしてくれる」
「えんがちょ切った!」
「んのやろ! 待て! 何しやがんでい、こんな薄気味悪いもの!」

     *     *     *

「おじいちゃん、ひょっとしてそれ」
「ああ、そうだよ。これさ。立派に成長して日陰をつくってくれている」
「おじいちゃんが若い頃には木がなかったの?」
「なかった。こいつが空気中の炭素を溜め込んで、酸素を吐き出してくれて、仲間を増やして、それからだんだん緑色のものが増えだしたんだよ」
「信じられないなあ。で、結局それが入ってた入れ物って何だったの?」
「古代文明の遺物さ。文書も同梱されていてな、判読できた文章にはこうあった。『子孫へ。これに水をやって日の光に当てろ。快適な環境を約束する。』」
「昔の宗教かなにかなのね」孫娘は細かい剛毛に覆われた肢を4本使って、木の葉をかき分けながら言った。「でもわたしたちには酸素が多過ぎるわ」
「まったくだ」8本肢の祖父は複数の目をキラキラさせながら言った。「よくまあ悪い病気にならずに生きて来れたと思うよ。良かったことと言ったらうまい虫が増えたことくらいかな」

(「約束」ordered by tom-leo-zero-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

SFPお題、承ります!2009/02/27 23:13:11

さあ!
Sudden Fiction Project(第3期)のお題募集を開始します。

3/1から連日1日1作ペースで書きまくろうと思っていますので、
どうかみなさん遠慮なく次から次へとお題を投げてくださいませ。
次から次へと書き上げてあなただけの小作品をプレゼントいたします。
通算300作品に到達するまで脇目もふらず書きまくります。
出血大サービス大盤振る舞いの大放出大会です。

お題は頂戴してもお代は頂戴しない、
いつもながらのシステムですのでご安心を!

こう書くと、いろんな仕事から解放されて
のびのび羽を伸ばしているみたいですが、実はその真逆です。
とっくに終わっているべき仕事がどんどんスケジュールがずれ込み
なんだか打ち合わせが無意味に険悪になったりするような仕事が
一つ二つではないという、まれに見るどん底どん詰まり状況です。

こういうときはね、もうね、やるしかないんです。
脳みその大攪乱を起こすしかないんです。
というわけではっきり言って燃えてます。

同様な募集をmixiでもやりますが、
mixiで受けたお題はmixiで、
ブログで受けたお題はブログで発表します。
どちらでもお好きな方をご利用ください。

3月1日から第3期スタートします。2009/02/15 22:58:09

というわけで、間もなくお題も募集しますが、
気分的に「もらったらすぐ書く」という感じでやりたいので、
募集開始は2月末が迫ってから。たぶん2/28にお題募集します。

発表はmixiで、と思いつつ、
第3期はここで発表してもいいかなとも思いつつ。
両方に貼りにくるのは面倒くさいなあと思いつつ。

そのあたりの方針を半月かけて考えます。



        風雲急を告げてる感じ。特に意味なし。→

【お題61】そこをなんとか2008/01/30 07:24:51

「そこをなんとか」と言う言葉がどこかに出てくる作品をお待ちしています。
タイトルに限らず、本文中のどこかに1回出てくればOKです。

作品の最後に
(「そこをなんとか」inspired by sachiko-san/text by あなたのペンネーム)
とつけてください。これはお題を出した人への礼儀と言うことで。




====================
◇ ネゴシエーター

「いくら賞美堂さんの頼みでもね、これは頼まれたからどうなるって話じゃないんだ。できないものはできませんな」
「そこをなんとか」
「わからない人だな。重さで2mg、サイズで12mm、ここまで削れたのが奇跡と言っていい。何べん頼まれたってもうこれ以上はどうにもならないところまでやっているんですから」
「そこをなんとか」
「あのね。ぎりぎりまで調整して、以前の構成を完全に見直してパーツの配置までミクロ単位で調整してようやっとここまできたんだ。それをそういう風に、まるでいままで何にもしていなかったみたいないわれ方をすると、あたしだっていい顔ばっかりしていられませんよ」
「そこをなんとか」
「だいたいね。賞美堂さんとはお父さんの代からのお付き合いだから、今までだってそれは大抵のことは何とかしましょうってやってきましたがね、うちだって道楽でやってんじゃないんだ。できるできないの線引きはきちんとさせて貰いますよ」
「そこをなんとか」
「いい加減にしろっ! なんだ、甘い顔してたらつけあがりやがって。だいたいこんなの最初から無理だってわかってたんだ。それでもあんたの顔を立ててやりたいと思うからこうやって、大のオトナが5人がかりで半月間、ほとんどろくに休みも取らずに精度を上げてきたんだ。あんたはうちの大事な働き手をつぶそうってのかい!」
「そこをなんとか」
「ばか言っちゃいけねえ。あたしだってもうこれ以上あいつらを一秒たりとも引き留められませんよ。たりめえでしょうが。こんだけこき使っておいて、限界の限界まで身を削るようにしてやってきて何だその態度は。帰って貰おうじゃないか」
「そこをなんとか」
「くどいぞ! たいがいにしろ。え? 出てけ。出ていきやがれ。おい。おーい。賞美堂さんがお帰りだ。塩持ってこい。後からまいてやる。ざけんじゃねえ。顔も見たくねえ。二度と来るなってんだ」
「そこをなんとか」
「どうにもならんって言ってるのがわかんねえのか。ルーバー構造の三層展開もピペリット三角の不正乖離も全部試したんだ。言っちゃあ何だが、こんなことできる工場が日本にいくつある? うちでできなきゃもうどこでもできやしねえ。さあ帰んな。とっとと出ていきな」
「そこをなんとか」
「しつこいな。悔しかったらピペリット三角の鏡面体を精製できる工場を探してみろってんだ。うん? 鏡面体? 鏡面体はまだ試していなかったな。でも同じことだ。サイズも重さも変わらないわけだからな。さあ諦めるんだな。ほら帰った帰った。しっしっ」
「そこをなんとか」
「鏡面体の件だけは考えてやるが無理に決まっている。だって12月の『月刊擬宝珠サイエンス』にも論文が確かサンタフェ研究所のゴディモフ教授以下の研究ってことで、ほらここに載ってるだろう。不正乖離は少数の例外を除いて、鏡面体同士は全く同サイズ同質量だ。何にも変わりっこない」
「そこをなんとか」
「確かに論文の付記には、以前ジュネーブのピケロゾヴァ教授が微小鋼の位相変換について。あ。いやしかしあれはまだ追試験レベルで確立された手法じゃ」
「そこをなんとか」
「もちろんうちの施設があればそこまでは試して試せなくはないが、あんたそんなの天文学的確率にかけるような話だぜ。正気の沙汰じゃねえ」
「そこをなんとか」
「そうなると電力は今までのざっと3倍はかかるし、材料もけちけちしたことを言わず一気に一桁増やして進めなくちゃならないのはわかってんのか。人件費だってバカにならねえし、賞美堂さんにしたって現実的じゃないだろう」
「そこをなんとか」
「しょうがねえなあ。わかった。わかりましたよ。でもあんたもとことん強情だね。今回はあんたにすっかり丸め込まれちまったが、いいかい。こんなこともうないからね。いやしかし賞美堂さんにはかなわねえなあ」

(「そこをなんとか」inspired by sachiko-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

【お題35】リクルートスーツ2007/12/31 09:26:01

「リクルートスーツ」と言う言葉がどこかに出てくる作品をお待ちしています。
タイトルに限らず、本文中のどこかに1回出てくればOKです。

作品の最後に
(「リクルートスーツ」ordered by あべっちょ-san/text by あなたのペンネーム)
とつけてください。これはお題を出した人への礼儀と言うことで。




====================
◇ セールストーク

店員「スーツをお探しですか」
客「ええ。まあ」
店員「リクルートスーツ」
客「ああ。はあ」
店員「どういったものをお探しですか」
客「いやまだ特に」
店員「個性的なものを」
客「個性的って言うか」
店員「ありきたりなのを」
客「いや、あんまりありきたりでない方が」
店員「ではこちらなどいかがでしょう?」
客「女性用じゃないですか」
店員「ありきたりじゃないですよ」
客「そこまで個性的でない方が」
店員「女性用の中では地味な方です」
客「そういうことじゃなくて」
店員「ではこちらなどいかがでしょうか」
客「ああ。いいですねえ」
店員「裏地にバリ在住のアーティスト、ウギャン・グン・デルエさんの傑作『極彩色の歓喜』をあしらってみました」
客「いらないですから。裏地にそんな派手な絵、要らないですから」
店員「裏地はない方がいいんですか。寒いですよ」
客「いや。裏地は要りますよ。そういう派手な絵は……だって必要ないでしょう!」
店員「ははあ。すると表も裏もありきたりでなく個性的すぎずというあたりですね」
客「ええ、まあ」
店員「これなどいかがでしょうか」
客「……いい、感じだと、思いますけど」
店員「私がデザインしました」
客「ええっ?」
店員「いけませんか」
客「いけなくはないけど」
店員「お客さん、こういう話をご存じですか」
   非常に長い間。
客「えっ? 何? あ。返事待ってんの? 何だよそれ」
店員「こういう話をご存じですか?」
客「……こういう話ってどういう話ですか」
店員「リクルートスーツ棺桶説です」
客「棺桶!?」
店員「ここに2つの棺桶があります」
客「はあ」
店員「1つはマホガニー製で職人の手になる精緻な細工が施された非常に豪華な棺桶です」
客「ああ。はあ。」
店員「もう1つはぺらぺらの段ボールでできた間に合わせの棺桶です」
客「そんな棺桶はないでしょう」
店員「あるんです」
客「いやないでしょう」
店員「それがあるんですよ」
客「いくら粗末でも段ボールって」
店員「まあいいでしょう。そのうちわかりますから」
客「わかんないって! そのうちも何もわかんないって!」
店員「ではもし、この豪華な棺桶を見たらあなたは非常に立派な人物が、あるいは極めて裕福な人物がそこに眠っていると思うでしょう?」
客「まあ、はあ、そうですね」
店員「ところがバッ! 開けてみる。何だ! つまらないやつだ。そんじょそこらにいくらでも転がっている冴えないうだつの上がらない機転の効かない出世街道からも見放されたうらぶれた一束いくらでたたき売りされているような平々凡々の親父だ。どう思います?」
客「どう……って」
店員「食べたいと思いますか」
客「はあ?」
店員「やっぱり栄養をタップリ摂って、脂がのってて、食べごたえのある金持ちでなくちゃ」
客「何言ってるんですか」
店員「冗談ですよ、お客さん」
客「当たり前でしょう!」
店員「棺桶だけ立派でもダメってことです。中身が伴っていないのに棺桶だけ立派にしても、がっかりさせるだけ、いざふたを開けたときの失望が大きくなるだけなんです」
客「ああ。なるほど。無理に自分を良く見せようとしないで、身の程にあったのがいいってことですね」
店員「よくおわかりで」
客「うん、まあ納得が行きました」
店員「ではお客さん、どうぞこちらに」
客「え? あ、はい」
店員「お客さんだけに特別にお見せしたいものが」
客「はあ、ありがとうございます。何ですかここは」
店員「これなどいかがでしょう。あまり派手すぎず、でもそれなりのファッションへのこだわりを感じさせるデザインになっています」
客「これって、え? 何?」
店員「納得行ったんでしょう。買っちゃいましょうよ」
客「これ、だって……」
店員「そうそう。これがほら、段ボールの」
客「か、棺桶じゃないですか!」
店員「ね、あったでしょう? 段ボール製の棺桶」
客「そういうことじゃなくて」
店員「私がデザインしました」
客「いいかげんにせいっ!」

(「リクルートスーツ」ordered by あべっちょ-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

【お題21】カウントダウン2007/12/17 07:26:53

「カウントダウン」と言う言葉がどこかに出てくる作品をお待ちしています。
タイトルに限らず、本文中のどこかに1回出てくればOKです。

作品の最後に
(「カウントダウン」ordered by 花おり-san/text by あなたのペンネーム)
とつけてください。これはお題を出した人への礼儀と言うことで。



==========
◇ 晴れ舞台

「いやしかし暮れやねー」
「ほんまやねー暮れやねー」
「めっちゃ冷えてきたなー」
「ほんまほんま冷えてきたわ」
「昼間、道歩いとったら突風がぶわってきて」
「そうやそうや突風がぶわってきて」
「……すうって引っ込んでったなあ」
「ああそうやった引っ込んでったわ」
「かと思ったら角のところでクワドラプル」
「そうやったクワドラプル」
「ほねほねマンがそれを見てバケツをペンギンさんの行列にどーん」
「ああバケツをペンギンさんの行列にどーんってな」
「……知ってるか? 今日なんかあれですで。一年で一番!」
「ああそうそう一年で一番!」
「なんや。言うてみ」
「なんやのん。君、言うてえな」
「君、言うたりいな」
「なんでやねん。そこは君が言うとこやろ」
「いやいや、ここは君に譲ったるから」
「いらんわ。知らん人からものもろたらあかんてオカンに言われとんねん、子どものころから」
「知らん人やないやろ、君とぼくで」
「いいや。知らんで君のこと」
「知らんことないやろ15年もやってきて」
「何を」
「何をって漫才やがな。コンビやがな」
「何やそれ。してへんで、そんなん」
「何を言い出すんや君は。小学校以来のつき合いやないか」
「やめてください、そういう無理難題を言うのは」
「あほか。ぼくが伯爵で、君が下々の者、二人合わせて」
「いやもう何のことかさっぱり」
「ていうかほんなら今ここで何しとんねん」
「通りすがりの人と会話してるんやがな」
「通りすがりて! ぼくをつかまえて通りすがりの人かい!」
「もうカンベンしてもらえます? ぼく急いでるんです」
「何で敬語やねん」
「そういう宗教とかアンケートとかはほんま母に止められているんです」
「誰が宗教やねん。それも母って。初めて聞いたわ君の口から」
「アイドルになる気もありませんし」
「言うてへんて」
「ほな行きますんで」
「待ちいな」
「もう、ほんまあきまへんねん」
「何が」
「行かなあきまへんねん」
「どこへやねん」
「十数えたら、もう行きますで」
「どこへやねん」
「10、9」
「あのなあ。困んねんって」
「8、7」
「マジで、なあ。お前おらんようなったら」
「6、5」
「他に仕事ないし。待てやこら」
「4、3」
「おれ一人でどないすればええねん」
「2、1」
「だからどこ行くねん!」
「来年へ! ゼロ」
二人「あけましておめでとうございまーす!」
「いやあ、これでまた年末まで仕事ないなあ」
「そろそろコンビ名、変えよか」
「それ、去年も言うとったわ」
二人「どうもカウントダウンでしたー」

(「カウントダウン」ordered by 花おり-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

【お題12】骨2007/12/09 00:04:15

「骨」と言う言葉がどこかに出てくる作品をお待ちしています。
タイトルに限らず、本文中のどこかに1回出てくればOKです。

作品の最後に
(「骨」ordered by shirok-san/text by あなたのペンネーム)
とつけてください。これはお題を出した人への礼儀と言うことで。




====================
◇ 207個ある!

「207個ありますな」医師がいった。「1つ多い」
「何がでしょう?」あなたは聞き返す。
「骨の数です。1つ多い」
「骨の数?」
「そう。人体の骨の数は決まっておってな、大きな人でも小柄な人でも206個だ。しかしあなたは違う。1つ多い」
「待ってください。どういうことです。1つ多いって」
「207個あるんですな。1つ多い」
「いやいや」あなたは答える「いやいやいや。それはわかってますって。だからええと」
「1つ多い」
「ええ。それはわかりました。だから、あの、どこの骨が多いんですか?」
「えへん」医師は咳払いをした。もう2度。「えへんえへん」
 間があいた。
 あなたは気がつく。医師は返事する気がないのだ。
「どこの骨が多いんですか、先生。それに1つくらい個人差で」
「なるほど個人差で個数が違う場合が確かにありますな」我が意を得たりと医師は言う。「生まれたての赤ん坊などはまだくっついていない骨が方々にあるのでざっと300個くらいある。これがだんだん癒合していって数が減り、不思議なもので大人になると206個になる。たいていは。しかしもちろん個人差はある」
「なるほど」あなたは安心して少し笑う。「じゃあ滅茶苦茶珍しいってことでは、ないんですね」
「滅茶苦茶珍しいですな」こともなげに医師は言い放つ。「極めてもうベラボウに」
「どうしてですか!」あなたはだんだん腹が立ってくる。「どうしてそんな、ベラ……珍しいんですか」
 医師は手元のカルテをちらっと見る。けれどもその動作に特に意味はない。なぜならカルテにはまだ何も記入されていないからだ。
「電子カルテというものがあって……」
「どうして珍しいんですか!」医師が話をそらそうとしているのに気づいてあなたは詰め寄る。「先生、質問に答えてください!」
「わからない」
「は?」
「どこの骨が多いかわからない」
「わから……じゃあなんで」
「でも数えたら207個ある」
「はい?」
「座敷わらしだ」
「座敷?」
「『11人いる!』みたいなものだ」
「11人?」
「萩尾望都だ」
「そうじゃなくて、なんですそれは」
「宇宙船の中に10人の受験生が」
「そうじゃなくて! どこの骨が多いかわからないと言うのは、どういう」
 医師はじろりとあなたを見つめ、言葉を探すようにしながら言う。
「あれは、読んでおいた方がいいですぞ」
 萩尾望都の話をしている!
「骨の話をしてください!」
「あ」医師はわざとらしくモニターをのぞきこみ、こちらを振り向き、大袈裟に何度もうなずきながら言う。「間違えた。間違えました。206個です。どこも悪くない。だからもう大丈夫。お大事に」
 そういうわけであなたは病院から追い出され、これからの人生を207個の骨と過ごすことになる。どこにあるのかわからない、1つ多い骨とともに。

(「骨」ordered by shirok-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)