【お題79】凍りついた海を駆ける2008/02/17 06:53:27

「凍りついた海を駆ける」と言う言葉がどこかに出てくる作品をお待ちしています。
タイトルに限らず、本文中のどこかに1回出てくればOKです。

作品の最後に
(「凍りついた海を駆ける」ordered by ピコピコ-san/text by あなたのペンネーム)
とつけてください。これはお題を出した人への礼儀と言うことで。




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◇ 待っているから

 ゆらめく陽炎の向こうにはただやけつく大地が広がるのみだ。動くものの姿とてない。すさまじい熱波が世界を焼き尽くそうとしている。過剰な日光の氾濫の風景に黒々と落ちる深い影の中おまえはたたずむ。そこにいてさえ大気が顔を焼き、肺腑までもからからにひからびさせようとしている。

 おまえは歩き出す。じりじりと照りつける太陽の中へ。一歩一歩踏みしめると焼けた砂から火花が飛び散る。その火花をつかまえおまえは腰に下げた袋にしまう。こうして命を懸けた準備が始まる。一足ごとに水分を失い火傷を負い、それでも火花を集めるためおまえは進む。一歩進むごとに一歩ミイラに近づく。命がけの採集行。

 ミイラになる前におまえは砂漠を抜け出すことができる。田園地帯に差し掛かり、川でたっぷりの水を飲む。けれどおまえはもう元のままのおまえではなくなっている。燃える砂地を歩ききり火花の採集に成功したのに、おまえはそれを何のためにしたのかがわからない。集めた火花をどうすればいいのかがわからない。何に使うのか。誰のためにしたのか。どこに届ければいいのか。手がかりはただ一つ。表面が焦げてしまった腰の袋に書かれた手書きの言葉。待っているから。どうぞご無事で。

 おまえはその文字を見つめる。誰が書いたのか思い出そうとする。その文字から伝わってくるのは、とてもあたたかなものだ。包み込むようなやわらかなまなざしだ。でもそれ以上はなにもわからない。お前は思う。そのまなざしを探し出さなければならないと。燃える砂地さえも越えたのだから。

 緑豊かな山野をわたり、大きな町を隅々まで歩き、おまえはただまなざしを探す。人々の目を見つめ、家畜たちの目を見つめ、焚き火の光の届かぬ影からこちらの様子をうかがう目さえも見つめる。やがて森の奥深く入り、高い山を越え、お前は凍てつく土地へと差し掛かる。

 こんなところにいるわけもなかろうに。心がそう囁いてもおまえの歩みは止まらない。なぜなら腰であの袋がささやき続けるからだ。待っているから。どうぞご無事で。それがたわいもない流行り歌の一節だということを、まだおまえは知らない。いつかそう知った時おまえはまだ歩み続けることができるだろうか。もしそうなったとしてもあのまなざしだけは本物だ。それはおまえの中にあっておまえを見つめ続ける。

 そしておまえは凍りついた海を駆ける。はるかなあのまなざしに向けて。そしていまはまだおまえを呼び続けるあの声に向けて。待っているから。どうぞご無事で。待っているから。どうぞご無事で。

(「凍りついた海を駆ける」ordered by ピコピコ-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

コメント

_ 阿藤智恵 ― 2011年03月05日 22時18分23秒

重箱つつきマン参上!
>その文字から伝わってくるのは、とてもあたたかものだ。

「あたたかなもの」かなあと思いますがいかがでしょう。

重箱つつきが止まらないのは、エッセイのお稽古がかけないからです。

_ hiro17911 ― 2011年03月06日 04時30分01秒

ありがとうございます!修正しました。

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