ひっそり告知「色のカタチ展」2009/10/21 16:15:33

色のカタチ展
「要予約」「平日のみ」「しかも17:00閉館」ということで、
一般のギャラリーに比べてもろもろハードルが多く、
なかなか「気軽にお越しください」と言えないのが残念なのですが、
また、絵とことばのコラボレーションによる展覧会が始まりました。
(10/19-12/28。入場無料。要予約。平日10:00-17:00。入館は16:30まで)

サイトのコピーを転載するとこんな感じの催しです。
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カンヌ国際展覧会で2年連続大金賞を受賞するなど、世界的評価を獲得するテツ山下による極彩色の貼り絵と、ことばの物語性を追及する高階經啓が選んだ漢字を書家・白翠がカタチにした想像力を刺激する書。貼り絵と書の競演が生むアート空間をご鑑賞ください。
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このテツ山下さんの作品はとにかくすごい。細かい色紙片を膨大に使った貼り絵なんですが、その緻密さと繊細さと力強さにはほれぼれしてしまいます。海外では「ペーパーキルト」なんて呼ばれたりしているそうで、カンヌ国際展覧会では受賞常連みたいです。

予約しないと入れない部屋には原画が展示されているので、見に行く方は是非「生涯に一度の愛」「時間1」をお見逃しなく。白翠さんの書も非常にキュートだったり大胆だったりコミカルだったりして表情豊かです。

先日テツ山下さんと、白翠さんと、三人一堂に会したんですが、テツさんは非常に腰の低いやさしい印象の人で、でも話を聞くとかなり骨太の武闘派で、白翠さんは一見もの静かなんだけどこれまたかなり芯の強いエッジのきいたアーティストと見受けました。

なんか、おれ、フツーだな、なんてさびしくなったり(笑)。

というわけでぼく以外の二人がすごい展覧会、幾多のハードルを乗り越えられるという奇特な方はぜひ脚をお運びください。

アートギャラリー2009「色のカタチ展」
 http://www.ricoh.co.jp/about/showroom/pic/event200910.html
「プリンティング・イノベーション・センター 東京」
 http://www.ricoh.co.jp/about/showroom/pic/index.html

◇ 桜(前篇)2009/10/22 17:39:51

 山から神様が降りてきた。桜はその玉座である。

 その神は稲の豊作をもたらすサの神で、私たちはサの神を田に導くためにさまざまな催しを行う。桜の木の下で宴を開き、歌や踊りを捧げご機嫌をうかがう。華やかに咲き誇る桜の花は、目には見えない神の印だ。その満開の桜の見事さを褒め讃え、私たちがどれだけサの神を待ちに待っていたかという思いを伝える。

 サクラとはサの神の御座(みくら)という意味なのだ。

 私たちは満開の桜の下で酒を酌み交わし、サの神の領域に入っていく。そこで捧げる舞はサの神の目を楽しませるためのもので、そこで声に乗せる語りは神の耳を喜ばせるためのものだ。夜ともなると男女はサの神の豊穣の恵みを浴びて交合し子を授かろうとする。あるいはサの神の歓びにあやかろうとする。

 このようにして、私たちの新しい年は始まる。

 やがてサの神がその御座を離れたら、まず私たちの家に訪れ滞在する。めいめいに歓待しつつ、サの神に見守ってもらいながら私たちは苗代で苗を育てる。苗が育ちサの月が訪れたら、いよいよ田楽だ。サの神がこれから収穫の季節まで留まるにふさわしい場所だということをわかってもらうために、私たちは歌い舞い酒食を捧げる。

 だから若い人、どうか忘れないでほしい。サの神が見ているのだということを。

     *     *     *

 目醒めた後も夢をはっきりと覚えていて、語りかけていた声もはっきり耳に残っていた。おれはソファから身を起こすと思わず誰かいないか探した。ついいましがた、おれに向かって話しかけていた人物が見つかるような気がしたからだ。探しても誰もいない。ただの夢なのだから。頭で考えればわかりきったことだったが、それでもまだおれの目は夕闇に沈みつつある事務所兼ギャラリーの中を彷徨っていた。

 ここにはたくさんの古道具がある。ソファがあり、診察台があり、磨りガラスの窓枠があり、ガラスケースがあり、薬棚があり、無数の額縁がある。取り付け金具やスイッチ類、小さなケース類や灰皿など小物にいたっては自分でもどのくらいあるのかわからないほどある。それらがみな暗くなったギャラリーの、がらんとした空間のあちこちに黒々と身をひそめ、静まり返っている。

 そういったものに、独特のたたずまいがあることを、おれは否定しない。骨董市や古道具屋やインターネットのオークションで手に入れたものも多数あるが、中には取り壊された建物からもらってきたり、知人の家の物置や倉庫をあさって譲り受けたりしたものも多い。霊感の強い友人がいろいろ理由を付けて事務所に寄り付かなくなったところを見ると、どうやらこの世ならぬ存在をいろいろ引き連れてきてしまっているらしい。

 もっとも、おれは幽霊を見たことはないし、霊感と呼べるほどのものもない。非常に怖がりなので、しょっちゅう視線を感じたり、悪寒を感じたりするが、霊感の強い友人にいわせればみんな気の迷いに過ぎないということになる。実際このギャラリーを始めてかれこれ4、5年になるが、その間、特段これといった怪異現象もなく無事に過ごしている。まあ、怪異現象に限っては無事に過ごしている。

 監禁されたり、殺されかけたり、骨折したり、変な組織の構成員にされそうになったり、いろいろあったが、どれも怪異現象ということではない。あくまでもろくでもない連中と関わったために、ろくでもない目に合った、それだけのことだ。桜は神の玉座だ? サの神? 田楽? 何のことだかさっぱりわからない。おれは寝ていたソファから立ち上がると、出入り口の近くのスイッチまで歩き、部屋の明かりをつけた。ドアに鍵をかけていなかったことに気づき、自分の不用心さに舌打ちをした。いままでさんざん危ない目に合ったのだ、もう少し気をつけなければならない。

 それから部屋に戻ろうと振り向いて仰天した。誰もいなかったはずのギャラリーに一人の男が立っていたからだ。男は仏頂面をしてこちらを見ていた。おれは混乱しながら男に尋ねた。ずっとそこにいたんですか、と。ええまあ、よく寝ておられたので。すみませんすみません、眠るつもりなんかなかったんですが。それはいいんですがね。そう言うと男は少し声をひそめておれに尋ねた。ここで演劇の公演ができると聞いたんですが。はい、いままでにも何回か使われてますよ。素晴らしい! 男はぴしりと言うと口をつぐみ、ギャラリー内を見渡した。それからおもむろに口を開くと、こう言った。野外公演を考えているんですがね。(続く)

(「野外公演」ordered by shirok-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)