◇ モーニング・ティー(write like singing)2011/02/25 07:56:23

せっけんのレリーフに描かれてるのは太った犬だとばかり思ってたから、
わたしは信じていた。せっけんの「けん」の字は「犬」って書くんだと。
だからレリーフの絵が本当は牛だと知った時はがっかりしたんだ、なんだかね。
わたしには犬のままで良かった。犬のままの方が良かったのだ。

一口すするモーニング・ティー。
失われた犬のせっけんを悼むモーニング・ティー。

そんな小さかったころの思い出が急に、蘇ってきたのは他でもない夕べの
あの小さなすれ違いのせい。あなたが次と言った時、わたしは今度のことと思った。
こうして来週の日曜日は今週の日曜日とまざる。今度の次が次なのか、
次の今度が今度なのか。何度聞いてもわからない。誰に聞いてもわからない。

一口すするモーニング・ティー。
失われた週末を悼むモーニング・ティー。


ティントン教会の鐘が鳴る。満月浴びた尖塔の先にあるはずの十字架が、
なぜだか今夜はよく見えない。それは黒い猛禽類が上に乗っているせいだよと
怖い声出しとうさんは、わたしをおどしたつもり。だけどわたしの頭には
もくもくした菌類が十字架をすっぽり隠している絵が浮かぶ。

一緒に飲もうかモーニング・ティー。
いまはもう間違えなくなったけど。子どもの勘違いも悪くなかったよ。

いれてちょうだいモーニング・ティー。こんな気分の朝だから。
一緒に飲もうよモーニング・ティー。湯気の立つよな熱いのを。
わたしの中に住む子どもと、あなたの中に住む子どもの
おろかでかわいい思い込みを慈しんで悼もうよ。

いれてちょうだいモーニング・ティー。こんな気分の朝だから。
一緒に飲もうよモーニング・ティー。湯気の立つよな熱いのを。

(「モーニング・ティー」ordered by あとう ちえ-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

◇ 忍びの流儀2011/02/15 07:38:50

声に出して耳で聞いて響き合って優秀
並ぶものをいまだ知らず我は潜り探る血筋
緻密の武術、人知れず修習
はばたきも舞いもまとめて吸収

誰にだって人に言えずかかえるものさ憂愁
誇り持ちて守り抜きし父祖の技は三筋
美々津の伝承、人知れず蒐集
片時も忘れはしない九州 

いまだ我は自由ならず心つねに幽囚
忠誠と裏切りの先へ走り抜けるS字
秘密の情報、人知れず収集
手羽先を供えて食べる旧習

声に出せよ耳で聞けよめざし飾れ有終
姿隠す必要ももはやない伸ばせよ背すじ
機密の混乱、人知れず収拾
矛先を転じたちどころに急襲

(「急襲」ordered by ハンサム-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

◇ 後悔2011/02/11 23:22:25

 グレゴリーの浜辺に
 懐かしき星見る
 腕の中に 眠る未来
 かなわぬ想いと
 夢と聞く片手に
 遥かな声求めん

 アレゴリーの夕べに (いつしか)
 濡れし砂踏みしめ(こぼれる)
 凍る夜空 響く電話(ての)
 届かぬまなざし(ひらを)
 時を止めあの声(おしえて)
 この胸にいだかん(たどるみち)
 
 グレゴリーの調べ聴く

(「後悔」ordered by tom-leo-zero-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

◇ くしゃみしてぎっくり腰の唄2011/02/11 23:13:31

くるくる回って くたびれても、悔やむことなく、来るの 首長くして待つ。

しばらく経って、シカトされても、性懲りもなく、執念深く、しがみつくよ。

やっぱり、やめた。やぶれかぶれだ、野菜まみれで、ヤンバルクイナだ。

みごとな仕事、見上げた態度、ミサンガ切れりゃ、みな、満たされる。

しとしと聞こえる、時雨の音か、しみじみ味わう、正月の 静寂(しじま)。

てなこと言われて、手羽先買って、テクノカットで、天気占う、寺の境内。

ぎょろ目の 犠牲者は、銀縁眼鏡に、儀式張った、ギリシャ彫刻風。

つらそうな 呟き 次々 連なる ツイッター。

くねくねうねって、くしゃくしゃ笑って、くしゃみした途端、苦痛のあまり、くらっとする。

りゅうとした 立派な身なりの 力士さえ、リアクション芸人みたいに 臨終する、 

腰の痛みに、腰砕けになる、腰巾着を、腰抜け呼ばわりする 腰元ひとり。

(「くしゃみしてぎっくり腰」ordered by Zackey!-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

◇ ぼくのおかあさん(EDテーマ)2011/02/11 23:09:11

母「スタイリッシュマウンテン!」
ぼく「あ? う、うん」
母「適当に相づちを打ってるんじゃないわよ! 」
ぼく「(どう答えりゃいいんだよ?!)」

     *

今朝の作品キャビートル?
細部もこだわり、造形完璧。
キャベツの千切りかっちり固めて
誰が見たってフォルクスワーゲン。

だけどかあさんこれは朝ご飯、
造形なんかなくていい。
ほらねかあさんみんな朝ご飯に、
芸術性は求めない。

母「お母さんはね、お母さんはね、
 そんな子に育てた覚えはありませんだわよ!」

     *

どこから来たの白雪姫?
ディズニーアニメそのままに。
素材も選り抜き、裾あげ美麗、
みんなにほめられ有頂天。

だけどかあさんお楽しみ会の
客席で目立つ必要ない。
ほらねかあさん幼稚園では
保護者は基本主役じゃない。

母「たとえお天道様が許してもね。
 孟宗竹は孟宗竹にほかならないのよ!」

     *

(call & response)
母「さあ、叫んでご覧。
 エスクレメントー!」(「エスクレメントー!」)
母「おけはざまー!」(「おけはざまー!」)
母「ランディ、マンディ、メクルディ!」(「ランディ、マンディ、メクルディ!」)
母「のそのそパワーの全裸回転!」(「のそのそパワーの全裸回転!」)

     *

スタイリッシュマウンテンどこにある?
テーマパークにありそうだね。
クリスタルパスネットってどんなもの?
テクノロジーの最先端ぽい。

だけどかあさんわからない。
頭の中覗いてみたい。
ほらねかあさん他のうちじゃ
冬に花火なんかしない。

     *

(call & response)
母「さあ、叫んでご覧。
 エスクレメントー!」(「エスクレメントー!」)
母「おけはざまー!」(「おけはざまー!」)
母「ランディ、マンディ、メクルディ!」(「ランディ、マンディ、メクルディ!」)
母「のそのそパワーの全裸回転!」(「のそのそパワーの全裸回転!」)

     *

だけどかあさんわからない。
頭の中覗いてみたい。
ほらねかあさん他のうちじゃ
冬に花火なんかしない。

だけどかあさんそれでいい。
ぼくのかあさんはそれがいい。

     *

母「ようこそお帰り未来の王よ!」
ぼく「それほめてるの?」
母「クリスタルパスネットをお出し!」
ぼく「わけわかんないよ!」

(「“歌詞(おかあさんシリーズの言葉で)”」ordered by tom-leo-zero-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

◇ 転戦スケーターの回心(四ステップで)2011/02/11 23:00:10

四国の山からきた本妻連。
回帰本能うずく訛り混在弁。
転戦につぐ転戦みな凡退戦。
 決まらねえ決まらねえ四回転。

四ッ谷で見たよ周恩来伝。
回春の秘訣はなんと温菜麺。
転機を迎えてなお御大然。
 そんな風で決めてやりてえ四回転。

四の五の言わずにめざせ尊大念。
回想するまでもなくおれ本来変!
転調するメロディー名づけて「盆栽展」。
 悪いかこれがおれのめざす四回転。

四面楚歌でも、我、存在せん。
回避無用。転んでもいいドンマイメン。
転ばず決めるぜ四回転!
 転ぶことなく決めるぜ四回転!

(「四回転」ordered by 又一-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

市民Pに関する覚え書き2010/12/26 11:23:28

 後に「市民P」または「玄人P」と呼ばれることになるボカロプロデューサー、岩渕ハヤテはささやかだが重大な発見をしていた。その話をしよう。

 岩渕ハヤテが「シチズン梅田」の名前でニコニコ動画に発表した最初の曲のタイトルは『くろうとはだし』。まさに玄人はだしのクオリティの高さだと、一部の注目を集めた。それも当たり前で、岩渕ハヤテは頼れるスタジオミュージシャンとして、すでに7年間の経歴を持っていた。それだけではない。中学時代からバンド活動を続けてきて、ボカロデビュー以前に書き貯めた曲が300曲に届こうとしていた。仕事が忙しくなり、バンド活動ができないストレスを晴らすため、自作曲の中からこれはという曲をピックアップして、ニコ動に発表しようと思いついたのが「シチズン梅田」の誕生のきっかけだった。

 けれども『くろうとはだし』は半年経っても2000人程度にしか視聴されず、さほど人気を獲得したとはいえない。後の人気からすると意外だろうけれど。第2作目『赤い粒胡椒』、第3作『畦は柿色/Eighty』も、「さすが玄人P』という評価を受けたものの、さほど注目を浴びたわけではなかった。ただ、この時点で何人かは、シチズン梅田が昭和の女性アイドル歌手をパロディにしたプロジェクトだということに気づいていた。そしてコメント欄に「あの音痴っぷりも再現できればもっといいのに」と書いた。

 これが大きな転機をもたらした。

 第4作『チャールズブロンソン』の発表までに半年が費やされた。この時点ではまだ試行錯誤が繰り返されていたが、いささか調子っぱずれのアイドル「シチズン梅田」はささやかな話題となり、1か月以内に10000人以上が視聴するようになった。第5作『那須のタブラ』では、「歌が下手なアイドル」としての完成度が一層上がり「なにこれ」「まじめにチューン汁」「SEIK○ちゃ〜ん!」「ダメポ」などのコメントを集め、3か月かけて10万視聴の殿堂入り。以後、第6作『エロいバラドル』、第7作『ほりたつお』は発表と同時に大絶賛で迎えられ、第8作『破壊ツイート柿ピー』では当時としては最短記録で殿堂入りするまでになっていた。

     *     *     *

 交通事故で岩渕ハヤテが亡くなったのは第10作『ゴス色のマイメイド』を発表して、そろそろ次回作が待たれているころだった。ちょうどそのとき、人気絶頂のアイドルグループの新曲が『ゴス色〜』にそっくり(というかあからさまなパクリ)だということが話題になっている最中だったので、その死には裏があるのではないか、事故ではなく事件なのではないかと囁かれたが、結局それは全くの不運な事故に過ぎなかった。

 「市民P」ことシチズン梅田の活躍はこれで終わった。シチズン梅田の死を悼む声が盛り上がり、さまざまな話題が重なったおかげで『ゴス色〜』はミリオンで視聴され、カラオケでは一般曲を含めたランキングでトップ10に食い込み、テレビやラジオでも一時期パワープレイされたが、忘れられるのも早かった。

 けれどもプロジェクトは続けられねばならない。わたしはそう思う。なぜなら岩渕ハヤテの曲はまだまだあるし、パロディの対象たる元アイドルの曲もまだまだあるからだ。それだけではない。わたしは岩渕ハヤテからヒット曲づくりの極意を聞いてしまったのだ。

 「あの音痴っぷりも再現できればいいのに」というコメントをきっかけに訪れた転機によって、岩渕ハヤテは元アイドルの歌声を研究し尽くした。そして、その調子っぱずれは、驚いたことに実は音痴ではなかったことを発見したのだ。それはある法則に乗っ取った歌声だった。そして岩渕ハヤテはその「調子っぱずれ」を再現するためのプロトコルをつくりあげた。

 わたしは「CITIZEN」名義で、プロジェクトを再開した。第11作『エジンバラの調度』、第12作『隠密の前園』は「できのわるい梅田のフォロワー」と切り捨てられたが、第13作「地獄のKISS」、第14作『シイナの林檎/SWEET POTATOES』を発表するに及んで、「これは本物だ」「シチズン梅田が生きていた」と話題になった。「市民P」の呼び名が定着したのもこの頃のことだ。

 そう。岩渕ハヤテが、わたしのハヤテが発見したことは正しかったのだ。あの元アイドル歌手は、正確に72平均律で歌っていたのであり、決して音痴だったわけではないのだ。72平均律の世界は、一般的な西洋音階に慣れたわたしたちの耳には調子っぱずれに聞こえる。でも、それは単に72平均律の世界を知らないだけのこと、その世界になじめば味わったこともないような複雑な音世界を体験できるのだ。

 かつてハヤテは言ってくれた。
 「だからあの頃、お前をボーカルに選んだんだよ」わたしたちは学生時代に一緒にバンドをやっていた。「あの頃は知らなかったけど、お前は72平均律の世界の住人だったんだ」
 「バンドのみんなに音痴だって言われて、わたしをおろしたくせに」
 「おろしてないさ。こうやって一緒に暮らして次に備えてるじゃないか」

 今のわたしは歌うことができない。ハヤテが死んで、もう何にも備えていないのだとわかって、声が出せなくなったのだ。けれども「CITIZEN」の名前で岩渕ハヤテの歌を歌わせることはできる。そしてCITIZENの新曲を待っている人がいる。それでいい。それでいいんだと思う。

(「平均律」ordered by タリン-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

紙で仕上げた物語展2010/11/26 16:49:29

この話を書かなきゃ!
とりいそぎのメモとして。
近く、ちゃんとまとめます!

ペーパーアートの太田隆司さん(紙業師!)の作品とのコラボレーション。楽しいです。

●フライヤーデータ
http://ext.ricoh.co.jp/about/showroom/pic/artgallery/pdf/topics101018.pdf

●アートギャラリー2010
http://ext.ricoh.co.jp/about/showroom/pic/artgallery/index.html

ことば師の仕事ぶり2010/08/15 23:33:58

昨年からずっと関わり続けているリコー本社2階プリンティングイノベーションセンターでの「アートギャラリー」の公式ページができました。

で、その中には動画もあって、ぼくを実際に知っている人にとって、これはもうギャグと思って見ていただいた方がいいかもしれないですが、4本中3本に恥ずかし気もなくぼくが出演しています。それも「おまえ、何者?」って感じで。

というわけで紹介するのにいささかためらっていましたが、こういうのは旬のうちにネタにするに限るということで恥をしのんで公開することにします。ご笑覧ください。
 http://ext.ricoh.co.jp/about/showroom/pic/artgallery/index.html

風のせせらぎ展2010/05/29 11:36:30

内田新哉さんの絵とのコラボレーション
いま、リコー本社2Fのプリンティングイノベーションセンターで開催中の「風のせせらぎ展」に、例によってことば師として参加しています。 “風の水彩師”こと、画家の内田新哉さんの絵とのコラボレーションですが、なんと今回は絵の中に文字を入れ込むという大胆な手法を許可していただけました。

「風のせせらぎ展」
 http://www.ricoh.co.jp/about/showroom/pic/event201005.html

8/6までやっていますが、これまた例によって「要予約」「平日のみ」「17時閉館」のように制約の多いものなので特に強くはオススメしません。

でもずいぶん評判がいいみたいなので、近くにお立ち寄りの際は「たまたまポスターを見かけて立ち寄った人」みたいな顔をして2階にあがっていただけば、最悪でも10点くらいはご覧いただけるのではないかと思います。あと、プリントアウトした作品を何枚か持ち帰ることもできるそうなので、よろしければどうぞ。