【お題4】 鈴木さん ― 2007/11/30 07:36:09
「鈴木さん」と言う言葉がどこかに出てくる作品をお待ちしています。
タイトルに限らず、本文中のどこかに1回出てくればOKです。
え? 鈴木さん? って感じですけど、そうです。これがお題です。
作品の最後に
(鈴木さん」ordered by ariestom-san/text by あなたのペンネーム)
とつけてください。これはお題を出した人への礼儀と言うことで。
==========
◇ 鈴木さん
行く先々で「鈴木さん」と声をかけられるのがイヤだ。
最初は福岡に旅行しているときのことだった。キャナルシティでぼんやり水を見ていたら「あれっ、鈴木さん? 鈴木さんでしょう? 千歳烏山の」と声をかけられた。誰だかわからずにますますぼんやりしていると「内田です。わからない? そうかー、そうだよね。ほら中2まで一緒だった……」
突然のことで混乱して考える。中2まで一緒だった内田さん。ということは彼女は中2で転校したということか? ああそれで福岡に住んでいるのか。
「こっちへはどうして?」
やっぱりそうだ。この人、こっちに住んでいるんだ。
「お仕事? それとも観光?」
「半分仕事で」
「いいなあ。会社からお金出してもらってアゴアシマクラはただで観光もしちゃうんでしょう!」
そういうことではなかったが、説明するのも面倒なので笑ってうなずいておく。
「そっかー。ゆっくり話したいけど、ちょっと急ぐんでごめんね。また連絡するわ」
そういうと内田さんは派手に手を振りながら足早に去っていく。
北海道でもいきなり声をかけられた。「あれ、鈴木さん? 千歳烏山の!」
広島でも、京都でも隙だらけでお土産屋をのぞき込んでいるときに声をかけられた。京都ではまさにその土産物屋のお店のおばさんに声をかけられた。
いちばん驚いたのは雑貨の買い付けに東南アジアをめぐっていたときのこと。バンコックとシンガポールとハノイで別々な人から「鈴木さん! 千歳烏山の鈴木さんだよね?」と声をかけられたことだ。一度の出張旅行で、3カ国3都市で声をかけられたのだ。その3都市それぞれに、千歳烏山の鈴木を知っている人が住んでいるというのも驚きだが、それがたった一度の旅行で連日のように会ってしまうというのは、いったい確率的にどういうことになるのか見当もつかない。ものすごい偶然だ。
でも最大の問題はわたしは鈴木さんではないということだ。千歳烏山に住んだこともないし、もっといえば東京に住んだこともない。仕事がら旅行は多いけど、生まれも育ちも大阪だし、学生の頃ちょっと高槻に下宿した以外、ずっと実家で暮らしている。
最近では出張の予定が決まるたび、また「千歳烏山の鈴木さん」と呼ばれるのではないかと、少し気が重くなる。というか本物の「千歳烏山の鈴木さん」はいったい何をしているんだろう。彼女もやっぱり、あちこちで声をかけられているのか。それとも「高槻の牧野さん」なんて呼ばれているのかな。
(「鈴木さん」ordered by ariestom-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)
タイトルに限らず、本文中のどこかに1回出てくればOKです。
え? 鈴木さん? って感じですけど、そうです。これがお題です。
作品の最後に
(鈴木さん」ordered by ariestom-san/text by あなたのペンネーム)
とつけてください。これはお題を出した人への礼儀と言うことで。
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◇ 鈴木さん
行く先々で「鈴木さん」と声をかけられるのがイヤだ。
最初は福岡に旅行しているときのことだった。キャナルシティでぼんやり水を見ていたら「あれっ、鈴木さん? 鈴木さんでしょう? 千歳烏山の」と声をかけられた。誰だかわからずにますますぼんやりしていると「内田です。わからない? そうかー、そうだよね。ほら中2まで一緒だった……」
突然のことで混乱して考える。中2まで一緒だった内田さん。ということは彼女は中2で転校したということか? ああそれで福岡に住んでいるのか。
「こっちへはどうして?」
やっぱりそうだ。この人、こっちに住んでいるんだ。
「お仕事? それとも観光?」
「半分仕事で」
「いいなあ。会社からお金出してもらってアゴアシマクラはただで観光もしちゃうんでしょう!」
そういうことではなかったが、説明するのも面倒なので笑ってうなずいておく。
「そっかー。ゆっくり話したいけど、ちょっと急ぐんでごめんね。また連絡するわ」
そういうと内田さんは派手に手を振りながら足早に去っていく。
北海道でもいきなり声をかけられた。「あれ、鈴木さん? 千歳烏山の!」
広島でも、京都でも隙だらけでお土産屋をのぞき込んでいるときに声をかけられた。京都ではまさにその土産物屋のお店のおばさんに声をかけられた。
いちばん驚いたのは雑貨の買い付けに東南アジアをめぐっていたときのこと。バンコックとシンガポールとハノイで別々な人から「鈴木さん! 千歳烏山の鈴木さんだよね?」と声をかけられたことだ。一度の出張旅行で、3カ国3都市で声をかけられたのだ。その3都市それぞれに、千歳烏山の鈴木を知っている人が住んでいるというのも驚きだが、それがたった一度の旅行で連日のように会ってしまうというのは、いったい確率的にどういうことになるのか見当もつかない。ものすごい偶然だ。
でも最大の問題はわたしは鈴木さんではないということだ。千歳烏山に住んだこともないし、もっといえば東京に住んだこともない。仕事がら旅行は多いけど、生まれも育ちも大阪だし、学生の頃ちょっと高槻に下宿した以外、ずっと実家で暮らしている。
最近では出張の予定が決まるたび、また「千歳烏山の鈴木さん」と呼ばれるのではないかと、少し気が重くなる。というか本物の「千歳烏山の鈴木さん」はいったい何をしているんだろう。彼女もやっぱり、あちこちで声をかけられているのか。それとも「高槻の牧野さん」なんて呼ばれているのかな。
(「鈴木さん」ordered by ariestom-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)
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