【お題69】シェラザード2008/02/04 12:05:13

「シェラザード」と言う言葉がどこかに出てくる作品をお待ちしています。
タイトルに限らず、本文中のどこかに1回出てくればOKです。

作品の最後に
(「シェラザード」ordered by たけちゃん-san/text by あなたのペンネーム)
とつけてください。これはお題を出した人への礼儀と言うことで。




====================
◇ to be continued

「おつ」
「お。お帰り」
「お帰り。どうだった?」
「問題なし。要求自体を撤回した」

 半年ぶりに戻ってきてサロンに入ると、いつものようにみんながたむろしていた。

「撤回したって? あの大統領が?」
「じゃあ、何とか話し合いの席についたんだ」
「いや。それ以前のところで考え直したらしい」
「そりゃあいい」

 出張中のメンバーを除くとほぼ全員がそろっていて、めいめいにくつろいだ様子で本を広げたり、モニターに見入ったりしているところまではいつも通りだった。でも何かが違う。どことなくよそよそしい空気を感じてしまう。なぜだろう。いつもならもっと暖かいアットホームな雰囲気を味わえるのに。

「どうした?」傍らにいた少年といってもいいような若者に尋ねると、若者は少し困ったような顔をしてうつむいてしまう。だからみんなに聞こえるように言い直す。「なんだなんだ? 「お通夜みたいなしけたつらして。何があった?」

 目を見合わせるみんなの反応を見て、突然どういうことかがわかる。

「シェラザードか」
 聞くまでもない。みんなの反応がそれを示している。シェラザードが戻らないのだ。わたしの出張前からだから、任務に出てもうかれこれ8カ月以上になる。連絡もなく、例の国の情勢も変わらない。国の元首、あの困った独裁者は相変わらず隣国に対して近親憎悪的な暴言を吐き続け、挑発を続けている。武力行使に踏み切らないあたりが、シェラザードの活躍を期待させるが、本当のところはわからない。

 我々ナレーターの仕事は単純だ。指示された国に出かけていき、その国の要人と引き合わされ、あとはただもう話し続けるのだ。かつてお殿様のそばで話し相手になったお伽衆(おとぎしゅう)が原型だという話もあるが、よくわからない。ヨーロッパのクラウンなどもこれに近い。ただし我々は日本から派遣されてその国の要人のお伽衆をつとめるのだ。

 派遣される国は一触即発の状態にある国がほとんどで、気の短い喧嘩っ早い国王や、あるいは、武力を誇示したがる大統領が、隣国などとことを構えようとしている場合がほとんどだ。なかには内紛や国内のクーデターといったケース、その国の国民に迷惑を及ぼしかねない王家の跡目争いといったところに出かけていく場合もある。対話を軽んじて力に訴えたがる国だけに、糸口を作るまでが大変だが、いったん話に引き込むと面白いように溺れていく。通称「ナレーター・スクール」でトレーニングを積んだ我々の手にかかれば、翌日の話を聞かずに戦争に踏み切る元首はまずいない。これを一定の日数続けると大抵の紛争は対話の段階に持ち込まれ、武力衝突を回避させられるのだ。

 日本が生んだ外交の秘密兵器とまで言われるが、我々は政治的なことには無関心だ。何の交渉もしない。ただ面白くてやめられない話を面白おかしく話して聞かせるプロなだけだ。何日分のネタを身につけているかで、派遣される国の難易度が決められる。一カ月間話し続けられるレベルが30人を超え、3カ月間話せるのは10人程度、1年間話し続けられるのはわたしを含め3人しかいない。なかでもシェラザードは少なくとも3年間は話し続けられる。1000日、王の関心をつなぎとめられるということで、このあだ名がついた。そして彼女はわたしの恋人でもある。

「手がかりは」聞くだけむだだ。何かわかっていれば誰かがとっくに話している。ここにいるのは話をするプロばかりなのだ。「わたしが行こう。外務省に連絡を取ってくれ」
「それはもう我々が何度も掛け合っている。でも外務省は及び腰なんだ」
「及び腰?」
「これ以上優秀なナレーターを危険にさらせないと」
「馬鹿な!」ではシェラザードを見殺しにするということか。「我々を何だと思っているのだ? 危険は承知の上だ」
「だからこれ以上失いたくないと」
「これ以上失いたくない?」相手がわたしの顔を見て息を飲む。顔から血が引くのがわかる。押し殺した声でわたしは言う。「外務省すら説得できないで何がナレーターだ」

 わたしが外務省をどのように説得し、どのようにシェラザードの後を追ったか、話したいのは山々だが今日はここまで。続きはまた明日。

(「シェラザード」ordered by たけちゃん-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://hiro17911.asablo.jp/blog/2008/02/04/2600923/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。