【お題63】シャコンヌ2008/01/31 13:22:27

「シャコンヌ」と言う言葉がどこかに出てくる作品をお待ちしています。
タイトルに限らず、本文中のどこかに1回出てくればOKです。

作品の最後に
(「シャコンヌ」ordered by カウチ犬-san/text by あなたのペンネーム)
とつけてください。これはお題を出した人への礼儀と言うことで。




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◇ BACH CODE

「とにかく聞いてみてくれ。聞いて自分の耳で判断してくれ」

 友人に勧められてシャコンヌを聴く。勧められるまでシャコンヌという言葉も知らなかった。一般に人はどのくらいこの言葉を知っているのだろう。興味が湧いたのでネット上であれこれ調べてみる。ぼくが聴いているのはヨハン・セバスチャン・バッハの「無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番ニ短調」の第5楽章だということがわかる。最初の4楽章はどれも4分以内の曲なのに、最終楽章のシャコンヌだけが13分もある。

「表面上言っていることはどんどん変わっているが、ここには一貫した何かがあるようだ」

 シャコンヌそのものは中南米が起源でドイツ・イタリアで完成された舞曲、ということになるらしい。バロック音楽というのはがちがちにヨーロッパ産のものだという思い込みがあったので、シャコンヌは中南米が起源だと知って軽く驚くことになる。スペイン植民地時代のメキシコあたりが元になっているためか「スペインが起源」と記したものも多い。でもスペインが起源というのと中南米が起源というのではずいぶんイメージが違う。

「もうこれ以上維持できないというのが植民星政府の判断だ。先住民の要求がつかめない」

 いままでにどこかで耳にしたことがあったかも知れないが、はっきりとは覚えていない。でもおよそ現代的な意味での「中南米が起源のダンスミュージック」ではない。もっとずっと内省的で緩やかで宮廷的な音楽だ。踊るにしても上品に気取った足運びをするしかないだろう。貴族社会に属する音楽家だったドイツ人のバッハは、この大がかりな曲にシャコンヌと名付けて、どんなスペイン植民地を想像していたのだろうか。海の向こうの足運びを想像するうちとまらなくなってこの長い長い舞曲になったのか。

「このままだと我々は1世紀にわたる開拓地を失うことになる。現地からのレポートに耳を傾けてくれ」

 シャコンヌを聴きながら、18世紀のヨーロッパ人の頭の中のメキシコを想像する。それはあまりに回りくどい方法だが、いまの我々の置かれた立場にとても近いようにも思われる。肝心なのは「なぜヨーロッパ人はそのように解釈したのか」ということだ。なぜメキシコの実像とかけ離れた像を結んだのだろう。そのギャップは何を生みだしたのだろう。植民星でのトラブルを総括したレポートはいわばシャコンヌだ。様々な観測と憶測が積み重ねられているが、注意深く耳をすませば同じテーマが鳴り響いているはずだ。

「PS.前のメールにあった『植民地時代のヨーロッパ白人になるな』というのはどういう意味だ?」

 固定された低音部の主題が繰り返されるのがシャコンヌの本来の形式だという。しかしバッハの曲にその固定された低音部はない。無伴奏ヴァイオリン曲だから固定した低音部をカットしたのか。あるいはバッハは想像するしかないメキシコをあえて空白にして提示したのではなかろうか。想像せよ。想像して聞き取れ、と。様々な形で変奏される表面上の表現の底で変わらず提示されているものを聞き取れ、と。

(「シャコンヌ」ordered by カウチ犬-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

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