【お題12】骨2007/12/09 00:04:15

「骨」と言う言葉がどこかに出てくる作品をお待ちしています。
タイトルに限らず、本文中のどこかに1回出てくればOKです。

作品の最後に
(「骨」ordered by shirok-san/text by あなたのペンネーム)
とつけてください。これはお題を出した人への礼儀と言うことで。




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◇ 207個ある!

「207個ありますな」医師がいった。「1つ多い」
「何がでしょう?」あなたは聞き返す。
「骨の数です。1つ多い」
「骨の数?」
「そう。人体の骨の数は決まっておってな、大きな人でも小柄な人でも206個だ。しかしあなたは違う。1つ多い」
「待ってください。どういうことです。1つ多いって」
「207個あるんですな。1つ多い」
「いやいや」あなたは答える「いやいやいや。それはわかってますって。だからええと」
「1つ多い」
「ええ。それはわかりました。だから、あの、どこの骨が多いんですか?」
「えへん」医師は咳払いをした。もう2度。「えへんえへん」
 間があいた。
 あなたは気がつく。医師は返事する気がないのだ。
「どこの骨が多いんですか、先生。それに1つくらい個人差で」
「なるほど個人差で個数が違う場合が確かにありますな」我が意を得たりと医師は言う。「生まれたての赤ん坊などはまだくっついていない骨が方々にあるのでざっと300個くらいある。これがだんだん癒合していって数が減り、不思議なもので大人になると206個になる。たいていは。しかしもちろん個人差はある」
「なるほど」あなたは安心して少し笑う。「じゃあ滅茶苦茶珍しいってことでは、ないんですね」
「滅茶苦茶珍しいですな」こともなげに医師は言い放つ。「極めてもうベラボウに」
「どうしてですか!」あなたはだんだん腹が立ってくる。「どうしてそんな、ベラ……珍しいんですか」
 医師は手元のカルテをちらっと見る。けれどもその動作に特に意味はない。なぜならカルテにはまだ何も記入されていないからだ。
「電子カルテというものがあって……」
「どうして珍しいんですか!」医師が話をそらそうとしているのに気づいてあなたは詰め寄る。「先生、質問に答えてください!」
「わからない」
「は?」
「どこの骨が多いかわからない」
「わから……じゃあなんで」
「でも数えたら207個ある」
「はい?」
「座敷わらしだ」
「座敷?」
「『11人いる!』みたいなものだ」
「11人?」
「萩尾望都だ」
「そうじゃなくて、なんですそれは」
「宇宙船の中に10人の受験生が」
「そうじゃなくて! どこの骨が多いかわからないと言うのは、どういう」
 医師はじろりとあなたを見つめ、言葉を探すようにしながら言う。
「あれは、読んでおいた方がいいですぞ」
 萩尾望都の話をしている!
「骨の話をしてください!」
「あ」医師はわざとらしくモニターをのぞきこみ、こちらを振り向き、大袈裟に何度もうなずきながら言う。「間違えた。間違えました。206個です。どこも悪くない。だからもう大丈夫。お大事に」
 そういうわけであなたは病院から追い出され、これからの人生を207個の骨と過ごすことになる。どこにあるのかわからない、1つ多い骨とともに。

(「骨」ordered by shirok-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

【お題13】ドライフルーツ2007/12/09 07:59:42

「ドライフルーツ」と言う言葉がどこかに出てくる作品をお待ちしています。
タイトルに限らず、本文中のどこかに1回出てくればOKです。

作品の最後に
(「ドライフルーツ」ordered by 花おり-san/text by あなたのペンネーム)
とつけてください。これはお題を出した人への礼儀と言うことで。



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◇ A Heart of Rock'n'Roll

「この季節になると毎年テレビでもラジオでも街の中でもかかる曲がありますね?」
 インタビュアーの女性がそう言うと、ロッカーはソファの中で居心地悪そうに姿勢を変えた。
「あれは別に俺がやったことじゃない」
「もちろんです。曲のパワーですよね」
「曲のパワー?」しばらく何か話し始めそうに顎を何度かかみしめ、それからぽつりと言う。「まあそうかもしれんよな」
「あの曲はどんな風にして生まれたんでしょう?」
「同じだよ、他の曲と。ピアノの前に座って鍵盤を叩きながらコード進行をいじったりしているうちにメロディが見つかる」不意にロッカーは身を乗り出しインタビュアーにぐっと顔を近づける。インタビュアーは体を反らすまいと懸命に姿勢を持ちこたえる。煙草か酒のにおいでもするかと思ったが不思議に老いた男からは何もにおわない。「俺はあいつらとは違うんだ。ある朝起きたらいきなりメロディが浮かんだり、曲が丸ごとバーンと頭に飛び込んできたりするような奴らとは」
「そうなんですか」
 ロッカーはまたソファに身体を預け深く息をする。
「あんたはいい匂いがする。香水の名前は知らんがラズベリージャムみたいだ」
「ラズベリー、ですか?」複雑そうな表情でインタビュアーは言う。
「うん。好きな香りだ。ああそうだ。ガラスの瓶がいっぱいあったんだ」ロッカーは目を細めて、ここにはない何かを見つめる。「小さい瓶だ。透明の。それがいっぱいあった。一つひとつ丁寧にラベルが貼られていて。ラズベリー、パパイヤ、パイナップル、チェリーもあったな。ピーチとかカシスとか。パイナップルはもう言ったか? あとあれだ。バナナとトマト。あんなものもドライフルーツにするんだな」
 インタビュアーは上手に相づちをうてないが、ロッカーは気にしない。
「それで俺が勝手に開けてつまむとあいつが怒るんだ」
「リサさん?」
「そう。怒るんだ。勝手に開けないで!って」しわだらけのロッカーの顔に微笑が浮かぶ。「一度こんなことがあった。あんまりいつも怒られるもんだから、でっかい瓶をいくつも買って、その中に適当にドライフルーツを詰め込んでプレゼントしたんだ。そうしたらあいつ、どうしたと思う?」
「喜んだでしょうねえ」
「逆だよ。ガシャーン!」大きく腕を上げ下げしてロッカーは大きな塊を投げおろすしぐさをした。「3階の窓から。全部だ。ドライフルーツもガラスも砕け散って飛び散って建物の入り口のあたりはもう大変な騒ぎだ。通行人もいるんだ。普通に歩いている。その上にガシャーン!」
「それは、ちょっと……」
「でも綺麗だった。窓から見下ろしたら、赤や黄色や紫やオレンジ、いろんな色が一面にぶちまけられて。粉々になったガラスが日の光にキラキラ光っていて。あんな女はもういない」そう言ってから、不意にその意味に気づいたようにロッカーは繰り返す。「あんな女はもういない。『ドライフルーツ』を書いたのはあいつが」
 唐突にロッカーは口を閉ざし、こみあげるものを抑えるように何度か顎をかみしめる。その眉間に深い縦じわが刻まれ、やがて元に戻る。それからロッカーは平坦な声で言う。
「飛行機事故のあとに書いたんだ、『ドライフルーツ』は。だから季節なんて関係ない。これはあいつと俺の曲なんだ」
 インタビュアーが何か気の効いた悔やみの言葉を思いつこうとしていると再び身を乗り出しロッカーは言う。
「あんたのにおいはあいつのにおいに似ている。あいつはいつもドライフルーツに囲まれていたからな。どうだ一杯やっていかないか。俺は医者に止められているから飲めないが、あっちの方は誰にも止められていない。というより誰にも止められない。おれにもだ。一晩中だって相手してやるぜ」

(「ドライフルーツ」ordered by 花おり-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)