【お題24】キャベツ ― 2007/12/20 08:32:52
「キャベツ」と言う言葉がどこかに出てくる作品をお待ちしています。
タイトルに限らず、本文中のどこかに1回出てくればOKです。
作品の最後に
(「キャベツ」ordered by sachiko-san/text by あなたのペンネーム)
とつけてください。これはお題を出した人への礼儀と言うことで。
====================
◇ お出かけの日に
夕方になっても彼が起きてこないのでわたしはカンカンになってひとりで出かける。だって今日は二人ともお休みなんだし、楽しいところに行って楽しいこといっぱいしようって約束していたのに、先輩に頼まれた仕事か何か知らないけど、三日前から帰ってこなくなって朝になって毎晩徹夜続きでへとへとだーって帰ってきてそのまま眠って声をかけても揺すぶっても殴っても蹴ってもお湯をかけても水をかけても寝耳に水をたらしても起きてこない。お出かけの日なのに。そんなのってあり? そんなのってなしだよ。
1人でお酒飲みに行ってかっこいい男見つけて口説かれてやるんだ。とーってもかっこよかったらそのまま帰ってこないんだ。三日間ぐらい帰らないで楽しいことをいーっぱいしてやるんだ。
でも1人でお酒を飲みに行く店を思いつかないので近所のよく知っているお店に入る。とんとんと地下に降りて空いているからどこにでも座れるけどカウンターだとマスターがいろいろ話しかけてきそうだし、そうするとどうして彼はいないんだとか電話かけて呼べばいいじゃないかとか一緒に飲んで仲直りすればいいとかもし呼んだら2人にカクテルをご馳走してやるとか言われるに決まっているから、店の隅の方の2人がけのテーブル席に座る。座ってからこれじゃあかっこいい男が入ってきても口説いてもらえないことに気づいてしまったけどどうせこのお店にはそんなにかっこいい男は入ってきた試しがないからまあいいやと思っていたらいつもの連中がだんだん集まってきて結局わたしもみんなのテーブルにまぜてもらう。
わいわい飲んでいるうちにだんだん調子が出てきてなにしろここの連中は本当に本格的に絶対的にバカばっかりでバカばっかりやってきた話をバカ丸出しで話すから機嫌が悪かったのも忘れて大笑いする。わたしもとびっきりのバカ話をする。ついでに彼のバカ話もする。ものすごく働いているのに請求書を書くのが面倒だからというだけの理由でずーっと無収入で過ごしてあやうく餓死しそうになったこととか、酔っぱらって家に帰ってトイレに行くつもりでベランダに出てトイレに柵があるのはヘンだからといって乗り越えて2階の高さから駐車場に落ちたけど酔っぱらっていたから無傷だったこととか、約束の時間を守れたためしがないこととか、いるべき時にいるべき場所にいたためしがないこととか。
そこまで話したときに彼が姿を現して、みんなが大歓迎する。わたしも大歓迎する。みんなで彼のバカっぷりをワイワイ話していると照れくさそうに笑って「これ差し入れ」とわたしに袋を渡す。期待して中をのぞいたら野菜が山ほど入っている。「すごくおいしそうだったから喜ぶと思って」と彼は本気で言う。
いつもこうなんだ。これが彼のプレゼント。選んだ理由もズレてるし選んだものはもっとズレてる。何を考えているんだかしらないけど、何でもない日に「今日は何でもない日だから」なんてヘンなプレゼントをくれたりする。全然可愛くないストラップとか。気が滅入るような絵本とか。
「キャベツ頭!」とわたしは言う。彼は笑う。
ばしばし叩きながらわたしは叫ぶ。このキャベツ頭! キャベツ頭! 痛い痛いと言いながら彼は笑う。ごめんごめんとあやまる。みんなが笑う。ひゅーひゅーと冷やかす。
だからわたしはキャベツが好き。
(「キャベツ」ordered by sachiko-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)
タイトルに限らず、本文中のどこかに1回出てくればOKです。
作品の最後に
(「キャベツ」ordered by sachiko-san/text by あなたのペンネーム)
とつけてください。これはお題を出した人への礼儀と言うことで。
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◇ お出かけの日に
夕方になっても彼が起きてこないのでわたしはカンカンになってひとりで出かける。だって今日は二人ともお休みなんだし、楽しいところに行って楽しいこといっぱいしようって約束していたのに、先輩に頼まれた仕事か何か知らないけど、三日前から帰ってこなくなって朝になって毎晩徹夜続きでへとへとだーって帰ってきてそのまま眠って声をかけても揺すぶっても殴っても蹴ってもお湯をかけても水をかけても寝耳に水をたらしても起きてこない。お出かけの日なのに。そんなのってあり? そんなのってなしだよ。
1人でお酒飲みに行ってかっこいい男見つけて口説かれてやるんだ。とーってもかっこよかったらそのまま帰ってこないんだ。三日間ぐらい帰らないで楽しいことをいーっぱいしてやるんだ。
でも1人でお酒を飲みに行く店を思いつかないので近所のよく知っているお店に入る。とんとんと地下に降りて空いているからどこにでも座れるけどカウンターだとマスターがいろいろ話しかけてきそうだし、そうするとどうして彼はいないんだとか電話かけて呼べばいいじゃないかとか一緒に飲んで仲直りすればいいとかもし呼んだら2人にカクテルをご馳走してやるとか言われるに決まっているから、店の隅の方の2人がけのテーブル席に座る。座ってからこれじゃあかっこいい男が入ってきても口説いてもらえないことに気づいてしまったけどどうせこのお店にはそんなにかっこいい男は入ってきた試しがないからまあいいやと思っていたらいつもの連中がだんだん集まってきて結局わたしもみんなのテーブルにまぜてもらう。
わいわい飲んでいるうちにだんだん調子が出てきてなにしろここの連中は本当に本格的に絶対的にバカばっかりでバカばっかりやってきた話をバカ丸出しで話すから機嫌が悪かったのも忘れて大笑いする。わたしもとびっきりのバカ話をする。ついでに彼のバカ話もする。ものすごく働いているのに請求書を書くのが面倒だからというだけの理由でずーっと無収入で過ごしてあやうく餓死しそうになったこととか、酔っぱらって家に帰ってトイレに行くつもりでベランダに出てトイレに柵があるのはヘンだからといって乗り越えて2階の高さから駐車場に落ちたけど酔っぱらっていたから無傷だったこととか、約束の時間を守れたためしがないこととか、いるべき時にいるべき場所にいたためしがないこととか。
そこまで話したときに彼が姿を現して、みんなが大歓迎する。わたしも大歓迎する。みんなで彼のバカっぷりをワイワイ話していると照れくさそうに笑って「これ差し入れ」とわたしに袋を渡す。期待して中をのぞいたら野菜が山ほど入っている。「すごくおいしそうだったから喜ぶと思って」と彼は本気で言う。
いつもこうなんだ。これが彼のプレゼント。選んだ理由もズレてるし選んだものはもっとズレてる。何を考えているんだかしらないけど、何でもない日に「今日は何でもない日だから」なんてヘンなプレゼントをくれたりする。全然可愛くないストラップとか。気が滅入るような絵本とか。
「キャベツ頭!」とわたしは言う。彼は笑う。
ばしばし叩きながらわたしは叫ぶ。このキャベツ頭! キャベツ頭! 痛い痛いと言いながら彼は笑う。ごめんごめんとあやまる。みんなが笑う。ひゅーひゅーと冷やかす。
だからわたしはキャベツが好き。
(「キャベツ」ordered by sachiko-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)
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