【お題7】火星の石2007/12/03 10:52:02

「火星の石」と言う言葉がどこかに出てくる作品をお待ちしています。
タイトルに限らず、本文中のどこかに1回出てくればOKです。

作品の最後に
(「火星の石」ordered by shirok-san/text by あなたのペンネーム)
とつけてください。これはお題を出した人への礼儀と言うことで。



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◇ バーフライ・トーク

 そこは地下のバーで、落ち着いた雰囲気はどちらかというと珈琲専門店のようでもあり、事実コーヒーもうまいので、ぼくもコーヒーを飲んでしばらく過ごすためだけに入ることがある。この街に引っ越してきて間もなく見つけて以来気に入って、夜2時までやっているというのもぼくには便利で、いまやすっかり常連となっている。MARS STONE、というのが店の名前だ。店の名前などまるで気にかけないで通っていたのだが、3回目か4回目に訪れたとき偶然他の客がいなくなるタイミングがあってマスターと話し込むことがあった。これはその時にマスターから聞いた、店の名前にまつわる話である。

     *     *     *

 え? 何だと思います? 曲のタイトル? ジャズの? ああ。いかにもありそうですね。『マイルストーン』みたいな感じで。いや実際にそういう曲やアルバムがあってもおかしくない。でもブッブー。違います。少なくともこの店の名前のいわれは曲名ではありません。

 あのね。ちょっと話、長くなりますよ。いいですか? ええと、どこから話そうかな。あれはわたしが小学校の3年生の時のことだから、まあどのくらい昔かはご想像におまかせしますが、転校生が来ましてね。大阪弁なのか何なのか知らないけどあっちの方のなまりでしゃべるやつで、確か和歌山だったか香川だったか、そっちの方から来たんです。変わった子で、なかなかみんなとなじまなくてね。というかわたしらも関西なまりを聞いただけで笑ったりしたから当たり前なんだけど。でもそいつがうちの近所に住んでいることがわかって、それから急に仲良くなりましてね。

 そいつのうちにはいろいろ珍しいものがありました。外国から持ってきたボードゲームとかね、バックギャモンなんて当時の日本にどのくらいあったんだろう。レゴなんて部屋を埋め尽くすくらいあったな、冗談抜きで。親父さんがファンだからって言うんで手塚治虫のマンガがずらっとあってね。小学生にはちょっと刺激的なのもあったから夢中で読んだり、ね。部屋にこもって。いや、でもいつ遊びに行っても大人はいなかったんですよ、そのうちは。おふくろさんも、親父さんも。

 いま思い返すとそいつのうちに遊びに行っているときは何かちょっと別な世界の住人になったような感じでしたね。だいたい遊びたい盛りの小学生が午後いっぱい家から一歩も出ないで時間も忘れて遊んでたんですから、ちょっと変わってますよね。

 結局5年生の時にまたそいつが引っ越していくことになって、わたしはライダーカードのコレクションからレアなのを何枚かあげました。そうしたら宝物をくれるって言うんです。それがこれです。何だと思います? そう。火星の石。「誰にも言うたらあかんで内緒やで」って言うんですよ。変でしょ? 隕石だって言うならまだわかる。でも火星の石だって言うためには、誰かが火星に行って石を採取して来なきゃいけないわけですよ。人だか、採取ロボットだかがね。もちろん当時は火星になんて行っているわけないんですがね。でもわたしも子供ですからその辺はよくわかってなくて「ふーん」てなもんですよ。すると、そいつはそいつで怒りはじめてね。「あるはずのない火星の石がここにあるから珍しいんやないか!」って言うんです。しまいには「おれんとこのオトンは宇宙飛行士なんや。誰も知らんけど火星に行ったことがあるんや」って。わたしは内心「そんな嘘までつかなくてもいいのに」なんて思って困っていたんですね。

 そうしたら突然そいつが言ったんですよ。「いらんわ!」って。そしてライダーカードを突っ返してきたんです。「いらんわこんなもん」って。こっちもびっくりしましてね。何て言ったらいいかもわからないし、どうしたらいいのかもわからない。それでなんかこう、凍り付いたようになっていたんです。お互いに。そこに親父さんが現れましてね、いきなり、何の前ぶれもなく。初めて見る親父さんですよ。その人がずかずか部屋に入ってくると「勝手に持ち出したらあかんやないか!」と声を荒げて火星の石をひっつかんで出ていったんですよ。あっと言うまでした。わたしには目もくれなかったって感じですよ。その時初めてわかったんです。それはニセモノじゃなかったんだって。

 結局そいつとは気まずいままでね。結局仲直りしないうちに引っ越していってしまったんです。何だったんでしょうね。本当のところは。不思議でしょう?

     *     *     *

「え?」しばらくしてぼくは言った。「じゃあこの石は?」
 小さな標本箱に納められた手元の石を指してぼくが尋ねると、マスターはにやりと笑って言った。
「ああ! そこまでは考えてなかった」
「はい?」
「待ってくださいね。もう一度やり直しましょう。長くなるけどいいですか? 一杯おごりますよ」

(「火星の石」ordered by shirok-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

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