【お題8】レセプション ― 2007/12/04 08:29:03
「レセプション」と言う言葉がどこかに出てくる作品をお待ちしています。
タイトルに限らず、本文中のどこかに1回出てくればOKです。
作品の最後に
(レセプション」ordered by aisha-san/text by あなたのペンネーム)
とつけてください。これはお題を出した人への礼儀と言うことで。
====================
◇ もうひとつ同じものを
目を閉じて、目を開く。
同時にからからと目の前の引き戸が開いて、小柄なおばあさんが出てきて、ようきなすった、さあさあ、お上がんなさいと声をかけてくれる。ああどうも。軽くお辞儀をして中にはいると、たたきがあってくつぬぎ石があって上がりがまちの向こうはすぐ畳の取次になっている。
あたたかい空気の中には煮物の柔らかな香りが漂っている。空腹を思い出す。お邪魔します。とつぶやき、家にあがる。おばあさんに案内されたのは入ってすぐ右手の応接室で、ふかふかした絨毯にソファセットがこじんまりと身を寄せ合っている。
どうぞ、と勧められるままに一人がけのソファに腰を下ろすと、見た目の印象と異なり、堅めでからだをしっかり支えてくれるので意外だ。悪くない。こういうしっかりしたソファを買おうかと考える。部屋の隅には石油ストーブが置かれ、上に置かれたやかんから湯気が上がって、冬の堅い空気をやわらげている。
気がつくとサイドテーブルにお茶と菓子が出ている。湯飲みを手に取るとかじかんでいた指先がゆるゆるとほどけていく。茶をすすり思わずああと声をあげる。小豆のはいったカステラのようなお茶受けを口に運ぶ。ふうん。自分が満足げなため息をついたことに気づき口元がほころぶ。
いいなあ。こういうのはいいなあ。
ここはどこだっけ。誰のうちだっけ。誰を訪ねてきたんだっけ。
それから徐々に部屋の印象が薄れていく。ああ。終わって欲しくない。もう少しこのままでいたい。
* * *
気がつくと店の中だった。わたしは空のグラスを前にカウンターに座っていた。
「いかがでした?」
微笑みを浮かべたバーテンダーがわたしの顔をのぞきこんで尋ねる。
「うん。悪くない」わたしは答える。「あれは君が考えたのか? あの家は」
「いいえ」バーテンダーは答える。「何をご覧になるかはその人ごとに違うんですよ」
「その人ごとに違う?」
「はい。その人にとっての一番心地よい、おもてなしの体験をされるようです」
「じゃあ、あの家は」
「お客様の記憶の中から一番落ち着く場所を見つけたのではないかと」
「あれが一番落ち着く場所?」
「日によっても違うそうですよ」
たいしたもんだ。
「たいしたもんだ」声に出して言い、グラスを指して注文する。「もうひとつ同じものを」
「レセプションですね。かしこまりました」
(「レセプション」ordered by aisha-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)
タイトルに限らず、本文中のどこかに1回出てくればOKです。
作品の最後に
(レセプション」ordered by aisha-san/text by あなたのペンネーム)
とつけてください。これはお題を出した人への礼儀と言うことで。
====================
◇ もうひとつ同じものを
目を閉じて、目を開く。
同時にからからと目の前の引き戸が開いて、小柄なおばあさんが出てきて、ようきなすった、さあさあ、お上がんなさいと声をかけてくれる。ああどうも。軽くお辞儀をして中にはいると、たたきがあってくつぬぎ石があって上がりがまちの向こうはすぐ畳の取次になっている。
あたたかい空気の中には煮物の柔らかな香りが漂っている。空腹を思い出す。お邪魔します。とつぶやき、家にあがる。おばあさんに案内されたのは入ってすぐ右手の応接室で、ふかふかした絨毯にソファセットがこじんまりと身を寄せ合っている。
どうぞ、と勧められるままに一人がけのソファに腰を下ろすと、見た目の印象と異なり、堅めでからだをしっかり支えてくれるので意外だ。悪くない。こういうしっかりしたソファを買おうかと考える。部屋の隅には石油ストーブが置かれ、上に置かれたやかんから湯気が上がって、冬の堅い空気をやわらげている。
気がつくとサイドテーブルにお茶と菓子が出ている。湯飲みを手に取るとかじかんでいた指先がゆるゆるとほどけていく。茶をすすり思わずああと声をあげる。小豆のはいったカステラのようなお茶受けを口に運ぶ。ふうん。自分が満足げなため息をついたことに気づき口元がほころぶ。
いいなあ。こういうのはいいなあ。
ここはどこだっけ。誰のうちだっけ。誰を訪ねてきたんだっけ。
それから徐々に部屋の印象が薄れていく。ああ。終わって欲しくない。もう少しこのままでいたい。
* * *
気がつくと店の中だった。わたしは空のグラスを前にカウンターに座っていた。
「いかがでした?」
微笑みを浮かべたバーテンダーがわたしの顔をのぞきこんで尋ねる。
「うん。悪くない」わたしは答える。「あれは君が考えたのか? あの家は」
「いいえ」バーテンダーは答える。「何をご覧になるかはその人ごとに違うんですよ」
「その人ごとに違う?」
「はい。その人にとっての一番心地よい、おもてなしの体験をされるようです」
「じゃあ、あの家は」
「お客様の記憶の中から一番落ち着く場所を見つけたのではないかと」
「あれが一番落ち着く場所?」
「日によっても違うそうですよ」
たいしたもんだ。
「たいしたもんだ」声に出して言い、グラスを指して注文する。「もうひとつ同じものを」
「レセプションですね。かしこまりました」
(「レセプション」ordered by aisha-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)
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